宇宙エレベータのクライマーの速度記録を、神奈川大学のチームが達成したそうです。
その速さは、100km/hです。

凄いですね。

でも、現実は、厳しいのです。




宇宙エレベータは、地上と静止軌道をケーブルで繋ぎ、そのケーブルを使って人や物質を運搬する技術です。
ケーブルを上り下りするのが、クライマーです。
つまり、クライマーは、地上と静止軌道とを往復するゴンドラなのです。

問題は、静止軌道の高さです。
地球の自転速度にリンクする軌道高度は、36000kmです。
となると、100km/hで昇り続けても、360時間(15日間)も掛かるのです。
もちろん、神奈川大学チームもわかっていて、次の目標を200km/hに設定しているそうです。これが達成できれば、静止軌道まで1週間で到達できる計算です。
でも、まだ1週間も掛かるんですね。



車輪の摩擦力で走行する車両で、最も速い営業運転は、鉄道の350km/hです。
これでも、静止軌道まで4日は掛かります。

でも、地上を走る鉄道とは違い、宇宙ならではの優位性もあります。
大気圏は薄く、100km/hでも1時間で大気圏外に出られます。そこからは、空気抵抗は無視できるので、高速化が容易です。
また、高度が高くなるほど、重力も小さくなります。高度15000km付近で、重力は半分になります。当然、負荷は軽くなり、より高速化が容易になります。
かなりの高速化が、可能なようです。

車輪の動力で走行した最速記録は、649km/hのはずです。
車輪での走行では、1227km/hが最速だったと思います。
このあたりが、車輪を使う場合の限界になるのではないかと、思っています。

でも、これでも30時間は掛かります。


車輪で走行する場合、車輪やレール(宇宙エレベータではケーブル)が弾性変形して、接地面を確保します。
ですが、宇宙エレベータのケーブルは、恐ろしく高い張力が掛かっています。なので、多少の応力では変形しないと思います。
また、表面に何かを巻くとしても、その重量は馬鹿にならず、現実的ではありません。
宇宙エレベータのケーブルに掛かる張力は、ピアノの180倍以上ですから、表面に何かを巻いて余分な荷重を増やしたくないところです。
となると、車輪側に弾性が求められます。
ですが、弾性変形を繰り返すと、発熱します。
超高速で、数十時間も発熱が続くと、車輪の耐久性に問題が出そうです。

これに拍車を掛けるのが、車輪に加わる向心加速度(遠心力)です。
周速の二乗を半径で除すと、向心加速度になります。つまり、大径の車輪を使えば、車輪に加わる向心加速度は小さくなります。
将来的には、車輪の径が話題になってくるのかもしれませんし、車輪を使わないようになるのかもしれません。(たぶん、車輪は使わないようになるはず)

もう一つ、気になるのが、ケーブルの振動です。
ケーブルには、共振周波数があるはずです。
非常に長い上、場所によって張力が違っているので、ケーブル全体で共振することはないと思います。
ですが、短い範囲(でも、数十kmとか、数百km)の共振は、起こりうると思います。
クライマーの速度が、共振周波数の波速の整数比になるなら、周辺のケーブルが共振するリスクが生まれます。
共振が起きるとすれば、張力が低い低軌道だろうと思います。


神奈川大学の挑戦は、興味深いものです。

宇宙エレベータの実現には、多くの技術革新が必要です。
クライマーも、実用機は、神奈川大の実験機の形状とは似ても似つかない物になるのではないかと、私は想像します。
一歩一歩が大事であり、一歩進むたびに、新たな問題に気付くことができるよです。それを乗り越えるたびに、改良され、姿形が変わっていくのです。
だから、期待して見守っていきたいと思っています。