サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、「社会経済を活性化し新たな成長に繋がるには、従来型の雇用モデルから脱却した活発な人材流動が必要」として、45歳定年制の導入を主張されています。


人材の流動化は、未来への方向性の一つと考えられます。
日本は、終身雇用制によって安心して業務に従事できるので、会社への帰属意識が強く、これが高度経済成長を支えたと言われています。
代わりに、人材が他社に流れにくく、技術が流動化しにくい要因の一つとなりました。


定年年齢の若年齢化が、人材の流動化に繋がるのでしょうか。
その効果は、小さいと思われます。

45歳で定年するとして、45歳以上を雇用しないのでしょうか。
仮にそうだとすると、62歳の新浪氏は、サントリーを去らねばなりません。新浪氏に限らず、経営陣は総退陣(45歳未満は居ないはず)となるはずです。
ですが、経営陣の若返りってことは、考えていないでしょう。
管理職は、定年を超えて雇用し続ける考えだろうと思います。
新浪氏が考える流動化してほしい人材とは、リーダー的な人材だろうと思います。定年を45歳としているのは、そのためでしょう。

ですが、現状でも、経営陣は雇用延長されるケースが数多くあります。
例えば、アサヒグループホールディングス社長は、69歳です。
アサヒグループホールディングスの定年は、今年3月末まで65歳(現在は最長70歳)でした。社長は、その時点で、定年を超えていました。
このような人材登用を、より若い年齢から行うように変えることを目的としているのです。

このような人材登用方法は、管理職タイプは優遇されますが、技術職タイプは微妙です。
技術職タイプは、45歳で定年を迎えると、会社を離れることになります。その際に問題となるのは、同業他社への転職の制限です。
技術(企業秘密)流れないようにするため、同業他社への転職を制限する企業は存在します。
つまり、人材の流動化を妨げているのは、このような制限事項と言えるのです。

企業の活動の硬直化を招いているのは、経営陣かもしれません。
経営陣が企業を硬直化させる要因の一つが、『人事権の行使』以外の経営力の低下です。
新浪氏の45歳定年制は、正に『人事権の行使』であり、経営力の弱さの現れでもあります。更には、45歳以上を同タイプで固めてしまうことになるため、企業の硬直化が進むことになります。
今回の『45歳定年制』は、経済同友会で賛同を得たと言いますが、同じ立場の人に聞けば、類似の反応になるのは当たり前です。むしろ、この反応で正当性を得たと考えるところが、先に述べた経営力の低下を象徴しているのです。


人材の流動化を促進したいなら、同業他社への転職を積極的に行うべきです。
また、特許の開放を進めることも、重要でしょう。

こうなると、新卒採用は難しくなっていきます。
企業内教育は、終身雇用制が背景にあります。長く自社で働くから、企業内教育に力を入れることができるのです。
ですが、教育して力をつけた頃に転職されると、企業としては大きな損失になります。
企業内教育はやめて、即戦力の採用に傾くことになります。
これに対応するため、大学教育はもちろん、高校教育も、企業のニーズに合わせた教育を徹底しなければならなくなります。それは、かなり偏った内容、例えばビール会社なら、ビールの製造工程に合わせた内容となります。
これでは、視野が狭く、情勢の変化に対応しにくい人材を世に出すことになります。
リーダー教育に力を入れたとしても、今度は企業内が硬直化してしまいます。
「船頭多くして船山に上る」です。

また、企業自体が、新卒採用者の技能を受け入れる器を持っていません。
採用すると、企業の風土ややり方に合わせた教育を行い、ラインに組み込んでいきます。
企業風土に合わない人材が入ってきた時、企業側が受け止められるのか、更には、その人材の能力を活かせる仕組みが、企業に存在するのか、問題になります。


このように見てくると、人材の流動化を促進するためには、やるべきことが山のようにあることがわかります。

「できない理由を言うのではなく、行動を起こすべき」と言うのは簡単です。
前述のように、私はやるべきことは書いていますから、どうぞ御自由に実行してください。

ただ、『45歳定年制』を始めると、会社への帰属意識は一気に低下します。
45歳は、子供が高校や大学へ進学する頃で、お金が掛かります。この時期に定年で会社を出されるなら、その前に定年が高い企業への転職をするでしょう。
転職は、若ければ若いほど有利です。結果的に、少し仕事を覚え始めた頃(20代半ば)、転職を始めることになります。求人が多いのは、概ね35歳くらいまでです。なので、この年齢くらいまでに転職していくことでしょう。
このような人に、帰属意識を求めるのは愚かです。
帰属意識が弱いので、難しい仕事は放り出してしまうかもしれません。
企業では、利益を出すのが困難な仕事があります。そんな仕事は、自分の評価に繋がりにくいので、やりたくはありません。どうせ、頑張っても、45歳で定年ですから、拒否したいところです。拒否が許されないなら、転職してしまえばいいのです。どうせ、早めに転職しないと、再就職が難しい45歳で会社を追い出されるのです。
こんな風になれば、仕事を回すことが困難になっていきます。


今、企業を元気にするには、経営陣の資質を見直すことが必要です。

別府市にある障害者支援施設『太陽の家』では、企業から受注して業務を行っています。
主な企業は、オムロン、ソニー、ホンダですが、いずれも創業者が中村裕氏に共感し、出資しています。(なぜか、雇われ社長の会社はない!)
これらの創業者は、自ら考え、方向性を示し、社員を引っ張っていったのです。社員は、創業者に共感し、叱咤激励を受け、企業を盛り立てていったのです。
こんな企業は、必要な人材は社内で育ちますし、集まってもきます。人材の流動化なんか、考える必要もないのです。
今の企業の経営陣に欠けているのは、こういった部分でしょう。
『45歳定年制』を考える前に、自社は何をする会社なのか、同業他社とは何が違うのか、具体的に示し、社員を引っ張っていくことが重要でしょう。
それができないなら、経営の場から去るべきだと思います。