少し前、 映画『はやぶさ 遥かなる帰還』を見る機会がありました。8年も前に公開されていますが、初めて見ました。
『はやぶさ』の帰還の転換点の一つ、イオンエンジンの複合モード運用のシーンで、吉岡秀隆さん演じるNEC技術者の森内(堀内)さんと江口洋介さん演じるJAXAの藤中(国中)博士が、激しい口論になります。
私は、森内さんに共感しました。
私は、森内さんに共感しました。
このシーンでは、まず森内が激怒します。理由は、藤中がイオンエンジンの複合モード運用(異なるイオンエンジンの中和機と負電極を組み合わせた運用形態)を渡辺謙さん演じる山口(川口)プロジェクトマネージャーに進言したことに始まります。複合モード運用を可能にするために、『はやぶさ』打ち上げ直前に藤中が複合モード用のダイオードを追加したことも、森内は反対だったことを明かします。これは、技術屋としては当たり前の考えです。私が森内の立場でも、同じように考えたでしょう。
森内は強く反対しますが、山口が複合モード運用を決断すると、気持ちの整理を付け、複合モード運用に全力を尽くします。
私が森内の立場だったなら、「技術屋として協力できない!」と、拒否を続けていたと思います。ダイオードを追加する際に、試験も行っていなかったためです。
試験も行っていない機能を使うリスクの高さは、恐ろしいものです。試験パターンから漏れてしまうと、運用開始後に痛い目に遭うものです。そんなことになると、冷汗をかきながらユーザーに謝罪報告をして、修理の許可を得ることになります。『はやぶさ』では、修理に行くわけにもいかず、謝罪どころではない大変なことになってしまいます。
川口さんは、相当な覚悟で複合モード運用を決断したと思いますし、それがわかった堀内さんも全力を尽くしたのでしょう。
どちらも、私が真似をできる次元ではありません。器の小さな私なら、最後まで複合モード運用を拒絶したか、投げやりになっていたと思いますね。
さて、『はやぶさ2』ですが、『はやぶさ』の経験を活かし、驚くべき順調さでミッションをこなしました。
『はやぶさ』では着地させられなかった小型探査機も、4機全機の着地に成功しました。
機体の大きさほどの空間に、『はやぶさ2』を着地させることにも成功しました。着地地点の狭さは尋常ではなく、なんと機体を傾けて着地させたほどでした。
『はやぶさ2』で出来なかった項目は、3回目の着地だけです。それは、技術的な問題ではなく、『りゅうぐう』の地形の問題でした。
残る不安は、大気圏突入もですが、サンプルが採取できているかです。
ほぼ全てのミッションを実施して、そのほとんどに失敗した『はやぶさ』において、おそらく唯一実施できていないのが、弾丸発射によるサンプル採取です。
『はやぶさ2』では、弾丸は発射できましたが、目的の量を採取できているのか、弾丸によるサンプルへの影響はどれほどなのか、気になるところです。
OSIRISーRExは、今年8月に小惑星ベンヌのサンプル採取を予定していますが、『はやぶさ2』とサンプルの一部を交換することが決まっています。なので、採取量が多いほど都合が良いのです。
ところで、『はやぶさ』ではイケイケ・ドンドンだった(ように見える)国中さんですが、『はやぶさ2』ではブレーキ役だったようです。
考えてみると、国中さんは恨まれ役ばかりやっているような気もします。
このような方がいたので、『はやぶさ』は失敗と経験を後に残すことができ、『はやぶさ2』は完璧な成功を収めようとしているのかもしれません。
12月には、『はやぶさ2』のカプセルが帰還します。
今から、カプセルの中身が楽しみです。
2020年は、新型コロナウィルス感染症に苦しんでいますが、最後に明るい話題が届くことを願っています。