前回に引き続き、オスプレイについて書いておこうと思います。


日本政府も、沖縄県も、マスコミも、今回の事故に関係するオスプレイの弱点について、
私見を書いておきたいと思います。

今回の事故(2016年12月13日に発生したオスプレイ不時着事故)では、固定翼機
なら不時着ではなく、基地まで辿り着けたはずです。その根拠については、もう一つの
「豊葦原中津谷」に「オスプレイ事故について」と題して書いています。
ここでは、その続きを書こうと思います。

オスプレイ事故について」で記述したように、オスプレイは、左右のローターが連結して
おり、それぞれ単独で回すことができません。
それ故、傷付いたロータを回し続けざるを得ず、結果として滞空できなくなりました。
では、片側のローターを切り離せるように、オスプレイを改良できるのでしょうか。
左右を切り離す場合、左右のトランスミッション・インターコネクト・シャフトを連結する
部分にクラッチを追加し、ローター損傷時に切り離す構造が考えられます。

オスプレイ構造+クラッチ
確かに、構造上は前述のようにできると思いますが、そう簡単ではないのです。
クラッチで左右のトランスミッション・インターコネクト・シャフトを切り離しても、
片方のローターだけで飛行できない可能性があります。
ローター中心は、重心から遠く離れた位置にあります。
今回の事故のように、左のローターを損傷した場合、右のローターだけでは直進することは
難しいはずです。
オスプレイの垂直安定板もラダーも、大きくはありません。
仮に、これらを拡大しても、サイドスリップが大きくなり、胴体への負荷が限界を超えて
しまうかもしれません。
現行のオスプレイは、左右のローターを切り離せないようですが、この辺りが理由で、
開発段階で割り切っていたのではないかなと、想像しています。



ついでに、もう一点、固定翼機との比較でオスプレイの欠点とされている滑空比について、
書いておこうと思います。

オスプレイの滑空比は、4.5とされています。
ジェット旅客機の滑空比は15~20だそうですから、オスプレイはかなり悪い値です。
滑空比ではありませんが、ヘリコプターのオートジャイロ・モード(エンジン停止)でも、
概ね高度の4.5倍の距離を飛行できるそうです。
オスプレイの滑空比が低い理由は、高い翼面荷重でしょう。
最大離陸重量を翼面積で除した翼面荷重は、773kg/m²にもなります。
固定翼プロペラ機のC130Hが490kg/m²であることから、オスプレイの翼面荷重の
高さが分かると思います。
翼面荷重を低く抑えるためには、翼面積を増やすしかありません。
ですが、主翼の面積を増やすと、ヘリコプターモード時のダウンウォッシュの妨げになり、
VTOL性能を低下させてしまいます。
ならば、エンジンナセルの外側にエンジンナセルと一体にティルトするティルトウィングを
追加する方法はないのでしょうか。

オスプレイ 主翼延長

ティルトウィングにすれば、ダウンウォッシュの妨げになりにくいので、良さそうですが、
そうはいかないようです。
まず、主翼の折り畳みです。

オスプレイ主翼折り畳み

写真のように、オスプレイは主翼を90度ひねって高い搭載性を獲得しています。
主翼を延長すると、延長部分が邪魔になってしまいます。
もちろん、延長部分も内側に折りたためるようにすることも可能ですが、折り畳み機構に
よる重量増がヘリコプターモードでの性能に大きな影響を与えてしまいます。
もう一つの問題は、エンジンナセルの外側の翼は、内側の翼よりも揚力が小さくなって
しまうのです。
それはなぜか?
それは、ローターの後流の影響が関係しているのです。
大きなローターは、その後ろにローターの回転方向と同じ方向の渦を作ります。
オスプレイは、左右のローターが反転しています。
正面から見て、左のローターは時計回り、右のローターは反時計回りに回転しています。

オスプレイ ローター回転方向

この回転方向なら、ローターの後流は、主翼の下から上に向かう気流となります。
この方向の流れは、主翼の上面を流れる気流が強くなるので、揚力が増すことになります。
翼面荷重が高いオスプレイが固定翼モードで飛行できるのは、この仕組みがプラスに働いて
いるのでしょう。
ところが、主翼を外側に広げた場合、ローターの後流は翼下面を流れる気流を強めるので、
揚力が小さくなってしまい、翼面を拡げるメリットが少なくなってしまうのです。



こうしてみてくると、オスプレイは上手く考えられた設計になっていることが見えてきます。
逆に言えば、現状の欠点を解決する余地は多く残っていないようにも感じます。


オスプレイは、ヘリコプターモードによるVTOL機能を持っています。
ですが、ヘリコプターに似てはいるものの、ローターの構造が全く違います。
そのため、ヘリコプターのような静的安定性はほとんどないようです。
オスプレイの事故率の高さの要因の一つが、この静的安定性の低さによるものではないかと
私は想像しています。

いずれにせよ、オスプレイは高い安全性を有する航空機ではないと考えています。
一方で、有事の際の能力は、非常に高いものを持っています。
オスプレイの評価は、両者のバランスの上で行われるべきでしょう。
事故率の高い、低いで議論するのは、愚の骨頂だと思います。