メディアは、キーワードが好きです。


原発事故では「メルトダウン」、広島水害では「バックビルディング現象」、
加計学園問題では「付託」等、キーワードを軸にした報道が好きです。


では、メディアは「キーワードに詳しいのか?」というと、そうでもないのです。

例えば、「メルトダウン」は、メディアでは「全炉心溶融」を意味すると決め付け、
関係者を詰問していましたが、本来は「炉心溶融」全般を指します。
つまり、意味を取り違えた上、そのまま責任追及に用いていたのです。

また、セウォル号事故では、ついに「メタセンター」は使われる事はありませんでした。

「メタセンター」は、復元力を説明する際に欠かせないキーワードなのですが、
あれほど復元力不足を報じておきながら、一度も使われる事はありませんでした。
つまり、この言葉を知らなかったのです。

 

メディアは、取材で聞き知ったキーワードを自慢げに使ってしまう傾向があるようです。

しかも、理解せずに表面的に受け取った印象で、そのキーワードを理解したつもりに
なっているようです。

今回の朝倉市の水害も、「線状降水帯」というキーワードで片付けてしまいそうです。


 


さて、朝倉市の水害ですが、降水帯を見ると、朝倉市から東側、若しくは東南東側に
線状に伸びていました。

この様相から、「線状降水帯」と呼ばれます。

では、なぜ線状になったのでしょうか?

それは、上空に西北西の風が吹いていたため、朝倉市付近で形成された降水帯が、
東南東方向に流されたのです。


でも、なぜ朝倉市付近で降水帯が形成されたのでしょうか?

なぜ、それより風上側では降水帯が形成されなかったのでしょうか?

そもそも、本当に西北西の風が吹いていたのでしょうか?

朝倉市のAMeDASを調べてみたのですが、降雨による気温差で風向が乱れていて、
傾向を読み取ることができませんでした。

そこで、南西側にある久留米市のAMeDASで見てみたところ、南南西からの7m前後の風が
安定して吹いていました。

朝倉市は、筑後平野の北東奥にあります。
北から東側には九州山地があり、南西方向からの風は、ここで行き止まりになります。
南西からの風は、この辺りで行き場を無くしてしまうのです。

朝倉市付近
(Yahoo地図に地表付近の風向きと降水帯を追記)


整理してみましょう。
 

 1、上空は北西からの風

 2、下層は南西からのやや強い風

 3、朝倉市は南西側に開けた 地形

 

これで、今回の大雨の全体像が見えてきた気がします。


 

大気の下層を流れる南西からの湿った暖かい空気は、朝倉市付近で地形の影響を受けて
上昇気流に転じました。

上空に上がると、北西からの冷たい空気に曝され、急激に冷やされたのです。

これにより雨雲が発達し、大雨を降らせたのではないか、私はみています。

雨雲は、上空の風で南西方向に流されますが、下層の風も上空の風も吹き続けるので、
常に新しい雨雲が形成され、大雨を降らせ続けたのです。

さらに、流された先でも、次々に雨雲が到達するので、同じように大雨が続いたのです。

 

先日、中国地方を襲った大雨は、海上から陸域まで線状に降水帯が伸びていました。

これに対し、朝倉市を中心とした水害は、線状と言うより、朝倉市を起点にした扇状
範囲で大雨が降っています。

中国地方の大雨と朝倉市の大雨を、「線状降水帯」という一つのキーワードで束ねるべき
ではないように感じました。

 

 


今、最も大切なのは、救助の手を差し伸べること、そして二次災害を防ぐ事だと思います。

地元自治体や自衛隊などが救助活動にあたっていますが、二次災害に巻き込まれないよう、
お気をつけください。