このような題材は、タイムリーに出すと流言・飛語となる恐れがあると思い、こんな間の抜けた時期に掲載することにしました。



9月6日午前3時8分に北海道胆振東部を震源とするM6.7の地震が発生し、苫東厚真発電所が緊急停止したため、北海道全域の大停電となりました。

経緯は、道内の電力の半分を担っていた苫東厚真発電所が停止したために、極端な電力不足に陥り、損傷を免れるために他の発電所も緊急停止したことは、報道されている通りです。

これに対し、一部で「泊原発を稼働させておけばブラックアウトを防げた」とか、「泊原発は電源喪失で危機的状態だった」とか、原発再稼動派と原発反対派の極端な主張がネットを賑わしました。

 

 

ますは、「泊原発を稼働させておけばブラックアウトを防げた」との意見です。

複数の状況が想定されますので、想定毎に確認したいと思います。

 

【想定1】

運転中の発電所は地震発生時と同じとし、かつ泊原発が再稼動可能な状態にあったと仮定します。

 

この場合、苫東厚真発電所が緊急停止してから泊原発を稼働したのでは、電力不足の解消まで時間がかかるので、ブラックアウトを防げなかったと思います。



【想定2】

泊原発と苫東厚真発電所が稼働していたと仮定します。

 

この仮定では、供給電力(約372万kW)が消費電力(当時約310万kW)を超えており、揚水発電所(約40万kW)を踏まえても、仮定そのものが成立しません。

 


【想定3】

苫東厚真発電所は2号機(60万kW)と3号機(70万kW)が稼働、泊原発は2号機(57.9万kW)と3号機(91.2万kW)が稼働していたと仮定します。

 

この場合も、2発電所だけで道内の電力の大半を賄うことになり、想定そのものが現実的ではありません。

また、北海道電力が想定していた機器故障による発電力低下分129万kWをわずかに上回るので、ブラックアウトを免れなかった可能性が残ります。

逆に、泊原発に近い場所で地震が発生し、原発が緊急停止した場合も、苫東厚真発電所が無事でも129万kWを超えるので、ブラックアウトになったと思います。

 


【想定4】

苫東厚真発電所は1号機(35万kW)と2号機(60万kW)が稼働、泊原発は1号機(57.9万kW)と2号機(57.9万kW)が稼働していたと仮定します。

 

この想定でも、2発電所の合計発電力は、地震発生時の苫東厚真発電所の発電力(165万kW)を上回ります。

この場合、どちらか一方の発電所の緊急停止には対応できたと思われます。

今回の地震では、泊原発は震度2でしたから、緊急停止はしなかったと考えられます。

従って、この想定ではブラックアウトは免れたと思います。

 


【想定5】

苫東厚真発電所は停止状態、泊原発は2号機(57.9万kW)と3号機(91.2万kW)が稼働していたと仮定します。

これは、地震発生時の発電を苫東厚真発電所から泊原発に置き換えた状態です。

 

この場合、今回の地震ではブラックアウトは起きませんが、泊原発の周辺で地震が発生した場合はブラックアウトに陥ります。

これは、泊原発が火力発電所であっても、結果は変わりません。

 

 

このような想定から、「泊原発を稼働していたらブラックアウトを防げた」とするのは単純すぎるように思います。

ただ、二つの発電所に発電を分散できる選択肢があるので、ブラックアウトを免れる運転形態が可能だったとは言えるでしょう。

 


一部に、「泊原発を動かしたいがために苫東厚真発電所に発電を集中させていた」との意見もありますが、言い掛かりのレベルです。

この意見の根拠は、苫東厚真発電所の発電力(165万kW)に対して、想定されていた余裕が129万kWしかなかったためのようです。


では、「165万kWを用意できたのか?」と考えてみると、無理だったように思われます。

9月9日時点のニュースを読むと、平日に約380万kWが必要になるが、10%程度の不足があるとしていました。

苫東厚真発電所の165万kWに対して用意できたのが129万kWですから、差分は36万kWです。

ほぼ、9日時点の不足分と一致します。

つまり、165万kW分を用意したくても用意できなかったと思われます。

また、どんな機械でもメンテナンスは必要で、厳冬期に備えて発電所のメンテナンスを行っていたと考えるのが普通だと思います。そのために、停止していた発電所があってもおかしくありません。

「苫東厚真発電所に発電を集中させたのは、『泊原発を動かしていないからブラックアウトになった』と言いたいため」と取ることもできます。つまり、苫東厚真発電所が全基停止することを期待していたことになります。
しかし、苫東厚真発電所が全基停止しするような事態は、通常であれば考えられません。ということは、地震が来ることを予知していたことになってしまうのです。
馬鹿馬鹿しいですね。

一方、北海道電力は新規の火力発電所を建設中(2019年2月運転開始予定)で、原発再稼動ができない場合を見越した対応と考えられます。
調べたところ、この発電所は、東日本大震災の半年後の2011年10月に、北海道ガスの石狩LNG基地に共同開発の形で参加するが決まり、建設計画がスタートしたようです。東日本大震災発生直後から計画がスタートしていても、今回の地震の前に発電所を間に合わせることは難しいことが分かります。

これらから、「泊原発を動かしたいがために苫東厚真発電所に発電を集中させていた」というのは、言い掛かりでしかないことが分かります。

 


 

「泊原発は電源喪失で危機的状態だった」との意見もあります。

これは、極端な主張に思えます。

泊原発では、燃料プールを連続的に冷却できていました。

外部電源が切れただけです。

「非常用電源の燃料は7日間しか持たない」との意見もありましたが、本当に危機的な状況とは、7日以内に外部電源が復旧せず、非常用電源の燃料補給もできず、ポンプ車の水も切れた場合でしょう。

この場合、燃料プールの水温は上昇を始め、タイムリミットがある危機的な状況となります。

では、原子炉を運転中だったとします。

この場合、今回の地震ではブラックアウトになりにくく、想定が変わります。

 

想定するなら、原子炉を運転中で、かつ原発周辺での地震だったとすべきで、この時に最も深刻になります。

もし、苫東厚真発電所がメンテナンスで全機停止していたなら、原発の緊急停止で道内ブラックアウトとなりかねません。

となれば、外部電源喪失で、送電線網にも被害があったなら、当面は非常用タービンと非常用電源が頼りになってしまいます。

どうやって非常用電源を維持するのか、例えば、陸路、海路、最悪は大型ヘリによる空路で燃料を補給する等の想定を考えるべきであり、批判するなら、このような想定と対策を講じていないことに対してでしょう。
揚げ足を取っても、何も解決はしません。



私は、原発再稼働に賛成の考えを持っています。
しかし、たとえ再稼働に賛成する意見であっても、根拠の薄い議論は嫌いです。
目先の意見ではなく、長く見通す考えが必要でしょう。