水温21以上で動物プランクトンが死ぬ率が高くなるとの研究が発表されたようです。
英スウォンジー大学のカム・タン教授、東京大学高橋一生(たかはしかずたか)教授らの研究グループは、日本沿岸の動物プランクトンは、海水温が21度を超えると急激に死にやすくなることを確かめたそうです。
(ちょっと疑問を感じる内容ですが・・・)


研究概要てすが、2013年5〜7月に、瀬戸内海、浜名湖(静岡県)、相模湾(神奈川県)、東京湾、大槌湾(岩手県)で動物プランクトンを採取して調べたところ、これらの海域に多い「カイアシ類」では、平均4.4~18.1%、最大53%が、水中で死んでいたことがわかったそうです。更に、動物プランクトンの死骸の半分ほどは、海底に沈んで堆積することもわかった。
死骸が堆積せずにバクテリアによって分解されれば、ふたたび栄養の元として役立つことになるが、堆積してしまうと、この栄養分の循環から外れてしまうそうです。海中の食物連鎖は、植物プランクトンの作り出した栄養分が、動物プランクトン、小さな魚、大きな魚へと受け継がれるが、海水温の上昇で、この連鎖が動物プランクトンの部分で貧弱になり、植物プランクトンの栄養が十分に魚に届かなくなる可能性もあると高橋氏は指摘しているそうです。
れとは別に、「アカルチア属」は、水面から底近くまでの平均水温が21度を超えると、死骸の割合が水温の上昇とともに急激に増えることもわかったそうです。
日本近海は、海水温の上昇ペースが世界の平均より速いそうで、大槌湾のあたりでも、夏の平均水温は21度くらいになっていると言います。




二ュースソースを元にしている(記者の素人コメントが含まれている?)ためかもしれませんが、この研究には疑問が多々あります。
温暖化による様々な懸念を示してきた私ですが、正確な情報を基にした議論をしたいと考えており、自己の都合に合わせた情報の取捨選択は行いたくありません。
なので、本件の中から「正しい」と思われる情報と、「間違っている」または「根拠がない」と思われる情報に分類しておこうと思います。



まず、調査海域ですが、海底まで光が届くような浅い海を対象としているようです。
調査海域が概ね内湾であること、「水面から底付近までの水温が21」とあり、底付近の海水温も高いことを示しているので、浅い海と思われます。

次に、プランクトンの死骸の半分が海底に沈むことを問題視していますが、海底に沈む比率を明らかにしたのでなければ、研究価値はありません。
以前から、プランクトンのかなりの割合が、マリンスノーの形で海底に沈むことは知られていました。
また、海底に沈んだプランクトンの死骸は、底棲の生物の栄養源になったり、湧昇流で海面付近に上がって表層の生態系に戻ることも、以前からよく知られていました。
調査対象となった浅い海では、海底まで表層の生態系に組み込まれていますし、海が荒れれば海底でも海水が揺さぶられ、表層との間で循環します。
プランクトンの死骸が海底に沈むこと自体は、ほとんど問題でありません。

三番目に、浮遊する動物プランクトンが高い比率で死んでいることが何を意味するのか、曖昧になっています。
記事では、水温の影響で動物プランクトンが死ぬ率が高まっているとしていますが、他の要素が多過ぎて、何も見えてきません。
動物プランクトンは、元々泳力が弱く、表層の海水と同じ浮力で漂っています。死んでも、直ぐには浮力が変化しないので、簡単には沈みません。ですから、海水中には、一定割合の死骸が含まれるのは当たり前です。
水温の変化や水温が異なる環境で、死骸の比率が変わるなら、新たな知見になると思いますが、この記事からは読み取れませんでした。

仮に、死骸の比率と海水温との間に相関があるとすると、次のような要因が考えられます。
 1.海水温によって、世代交代の周期が短くなる。
 2.海水温によって、バクテリアの分解の早さが変わる。
 3.海水温によって、動物プランクトンの死骸の沈降時期が変わる。
 4.動物プランクトンの棲息条件の中で、海水温が強い要素となっている。

他にも沢山あるでしょうが、私が思いついたのは、これくらいです。
「4」は、話題にしている研究が主張する内容です。
この中で、「1」は解説が必要かもしれません。
死骸の比率は、寿命と浮遊期間の比率[(寿命+浮遊期間):浮遊期間]です。研究対象のカイアシ類は、1世代で1回の産卵ですから、孵化から産卵まで(寿命)が早くなれば、浮遊期間に対して寿命が短くなり、死骸の比率は高まります。
カイアシ類は抱卵する種もあるそうなので、孵化から産卵までを寿命とするのは、やや乱暴かもしれません。

さて、私が思いついた要因だけでも4件ありました。
その中には、成長(孵化から産卵まで)が早くなる場合も含まれます。(1が相当)
死骸の比率と海水温との関係は、一筋縄ではいかないと言えます。



この研究において、正しいと思われるのは、、「アカルチア属は、水面から底近くまでの平均水温が21度を超えると、死骸の割合が水温の上昇とともに急激に増える」ことだけと思います。
「動物プランクトンの死骸が海底に沈んで堆積すると、栄養分の循環から外れてしまう」との指摘は、間違っていると思います。
上記以外の研究結果は、そんな見方もあるという程度でしょう。