久しぶりに、地震の話を書きます。

「深海魚の出現は、地震の前兆ではない」ことを、東海大の海洋研究所と静岡県立大のグループが発表しました。

グループの研究によると、地震の前兆とされてきた深海魚の「リュウグウノツカイ」、「サケガシラ」、「テンガイハタ」、「タナベシャチブリ」、「シャチブリ」、「アカマンボウ」、「ユキフリソデウオ」、「テングノタチ」の8種類について、文献や地方紙の記事などで1928年11月~2011年3月の間に336件の漂着や捕獲の事例を調査したそうです。
これらの漂着や捕獲から30日以内に、発見場所から100km以内が震源となったM6.0以上の地震があるかを調べたところ、2007年7月16日の新潟県中越地震しかなかったことが分かりました。

この研究では、捕獲から30日以内、半径100km以内、M6.0以上を条件にして調査していますが、この条件が正当なものか、私の地震予知の実用性で計算してみましょう。
地震予知の実用性は、以下の式で計算します。

地震の評価式


この式に当て嵌めると、実用性:Pは 0.0106 となります。
ギリギリですが0.01を超えているので、「デタラメと断定はできないが、地震予知としてはかなり怪しいレベル」との判定になります。
この条件下で深海魚の出現と地震との間に関係性があることが確認されたとしても、深海魚出現で地震を予測する場合の実用性はないと言ってもよいレベルです。
このような緩い判定条件でも、336回中1回の成功率ですので、深海魚と地震との間に関係は無いと断言しても何の問題もありません。



この話題を当ブログで取り上げた理由は、科学的な考え方を説明するためです。

まず、地震が深海魚に影響を与えると仮定します。
科学では、これを証明しなければなりません。
前述の研究では、地震発生前に深海魚への影響があるかを確かめています。
その確認方法は、比較的単純な統計を用いています。

ですが、手当たり次第に事象(この場合、深海魚の出現)と地震の関係を調べていくのは、時間の無駄に思えます。と言うのも、世間では何でもかんでも「地震の前兆だ!」とする傾向があり、地震の前兆と言われる現象は限りなく存在します。
そこで、絞り込むために、もう少し知恵を使ってみましょう。

地震が放出するエネルギは、本震が最大です。次に多くのエネルギを放出するのは、本震の後に発生する余震です。本震の前に発生するエネルギは、前述の二つよりも小さなものとなります。
地震が深海魚に影響を与えるなら、本震の直後に深海魚の出現がピークになると考えるべきです。
本震の直後に深海魚が大量に出現しないなら、それだけで深海魚の出現と地震との間には関係がないだろうと推測できるのです。
前兆と本震で発するエネルギの形態が異なる場合も、本震まで連続的に事象が続き、本震発生時にピタリととまるはずです。なので、本震より前に単発的に発生して、本震まで間があるなら、その現象と地震との間には関係がないことが分かります。

科学的な視点を持つと、地震と前兆現象との間に関係があるとする際に、前兆現象はどのような条件を満たす必要があるのかを、考えるべきです。
それを考えれば、深海魚の出現が地震の前兆ではないことが論理的に理解できるはずですし、他の現象でも、地震の前兆かどうかを判断できるようになります。

地震の前兆現象が話題になる度、科学的な思考の大切さを痛感させられます