カーボンニュートラルを実現するための施策に、『カーボンプライシング』があります。
簡単に言うと、二酸化炭素排出量を販売単価に反映させるのです。二酸化炭素排出税や排出権取引によって、製品価格に転嫁します。

最も手っ取り早い方法が、石油・石炭・天然ガスなどに輸入関税をかけることです。
日本は、石油は99.7%、石炭は99.3%、天然ガスは97.5%を海外に依存しています。なので、ここに関税をかければ、末端までカーボンプライシングが届きます。
この考えによる『地球温暖化対策税』が2012年から始まり、2016年からは予定されていた最高税率で課税されています。

これらの施策の欠点は、国内法であることです。つまり、海外で生産された製品には、課税されません。
この対策として、『国境調整措置』が検討されています。
これは、二酸化炭素排出量の削減ができていない国からの輸入には関税をかけ、輸出には補助を出すやり方です。欧米では、既に検討・実施されています。

ですが、『国境調整措置』には、いくつかの問題があります。

まず、『国境調整措置』を実施している国から「日本に対して何ができるのか」です。
『国境調整措置』は、恣意的に運用できます。
相手国の二酸化炭素排出量は、正確には判定しにくいところがあります。
例えば、該当国が「個人の暖房需要が多いので、産業の排出量は少ない」と主張した場合、どう判断すれば良いでしょうか。正確な判断は難しいので、『国境調整措置』を発動した国の主観的な判断で運用することになります。
これを拡大すると、例えば「石炭火力を使っているから」とか、「再生可能エネルギー比率が低いから」とか、「製品の生産量を偽っている(単品当たりの二酸化炭素排出量を偽る)」とか、いくらでも恣意的に運用できてしまいます。

逆に、日本が『国境調整措置』を運用する場合、関税外貿易障壁として扱われる可能性もあり、TPPの規定に抵触するかもしれません。
日本の貿易は、TPPで縛られています。
TPP加盟国が、二酸化炭素を大量に排出しながら安価に製品を生産していても、関税をかけることは難しいはずです。
また、『国境調整措置』が恣意的に運用できるので、TPPに『国境調整措置』を盛り込んでしまうと、TPPの本来の自由貿易が崩れてしまう。
また、『国境調整措置』を組み込む条件として、日本が持つ高生産効率の技術供与が持ち出されるかもしれません。その場合には、日本の技術開発費が回収できません。また、国内企業は、海外での技術開発にシフトするかもしれません。
また、国家主導による技術開発も、TPPによって制限を受けるはずです。



当ブログでは、かねてからTPPには反対の考えを伝えてきました。
当ブログの主目標である食糧自給率の向上でも、副目標である地球温暖化の防止でも、TPPは足枷になります。だから、反対の意思を表明していました。
カーボンプライシングも、TPPの影響を受ける可能性があります。
日本が、目先の経済を優先するために他国に流され続けるなら、様々な面で世界から遅れていくことになりそうです。

既に、成立してしまっているTPPですが、それならば、二酸化炭素排出量削減で先進的な取り組みが行われることを期待します。日本が主導することによって、日本国民の生活の向上に繋げてほしいものです。
その上で、TPP加盟各国の共栄を図ってもらいたいものです。
(接待漬けの官僚には無理だな・・)