自然界では、デンプンは、葉緑体によって合成されます。

人類は、トウモロコシ等から生産しますが、広大な農地で3〜4ヶ月をかけて栽培されるため、実質的な効率は高くありません。
光合成では、太陽光の12%程度(680nmの光では36%)を化学エネルギに変換します。ですが、農地での栽培では、実質2%程度しか化学エネルギに変換できません。

地球温暖化では、農業への影響が懸念されています。
特に、日本は食糧自給率が極端に低く、他国の食糧生産事情の影響をモロに受けます。
それを考えると、日本は、人工的なデンプン合成の研究を進めるべきです。


・・ですが、この種の研究は、日本ではなく、中国で進んでいるようです。

中国科学院の研究チームは、「二酸化炭素からデンプンを高効率で合成することに成功した」と発表しました。(新しいASAP)

植物がデンプンを合成する過程は、60を超えるステップがありますが、中国が開発したデンプン合成法は、11の化学反応を経るだけでデンプンを合成できるそうです。
この11の化学反応を要約すると、次の3段階に整理できるようです。

1.二酸化炭素と水素を、無機触媒を用いてメタノールに変換する。
2.メタノールを、遺伝子改編した酵素で糖に変換する。
3.糖を、高分子デンプンに変換する。

デンプンには、大きく分けて、アミロース(直鎖状)と、アミロペクチン(網状)がありますが、どちらも合成可能なのだそうです。
(※どちらかを選択的に合成することが難しいのかもしれませんが・・)
植物がデンプンを合成する速度の8.5倍の速さで、デンプンを合成できるそうです。



さて、工業的に生産されるデンプンを食用とするには、様々なハードルがあります。食糧の工業的な生産は、まだまだ長い道程が続いています。
ですが、e-fuelとしてなら、大いに期待できます。

まず、中間生成物として、メタノールを生産できます。
メタノールを、そのまま燃料として使用することが考えられます。
メタノールは、オクタン価が高いため、オットーサイクルエンジン(ガソリンエンジン)の燃料として使用できます。
ただし、特定の金属を腐食させたり、ゴム製品を劣化させやすい欠点があります。
また、密度はガソリンと大差ありませんが、質量あたりの熱量が半分ほどなので、タンク容量は2倍にする必要かあります。
更には、毒性があるため、毒物及び劇物取締法で管理されています。事故時も含め、メタノールの管理は容易ではないでしょう。
実際、ロシアでは、密造酒にメタノールが混入していて、死者が出ています。

ならば、糖を生成するところまで進め、そこからエタノールを生成できるはずです。
エタノールは、既に燃料としての使用実績が充分にあります。自動車レースのインディ500マイルでは、燃料として使用されています。
毒性は低く、少量であれば飲んでも大きな問題はありません。お酒のアルコールは、このエタノールです。(大量に飲めば、急性アルコール中毒で死亡します)

エタノールでの保存は危険性が高いので、余剰分はデンプンで保存しても良いでしょう。
デンプンも、微粉塵となった場合は、粉塵爆発のリスクがありますが、貯蔵方法を間違えなければ、そのリスクも問題にはならないはずです。

カーボンニュートラルでは、エタノール燃料が期待されています。
しかし、エタノールは、食用としても利用可能な農作物から製造されるため、食糧と燃料のトレードオフの関係となります。
燃料用エタノールを食糧以外から製造できれば、このトレードオフ関係を解消できます。
間接的に、食糧事情を改善できるので、研究を進める価値はあるでしょう。


この研究で、不明な点は二酸化炭素濃度です。
大気中の二酸化炭素濃度は、400ppm(0.04%)ですから、非常に希薄です。植物は、この希薄な二酸化炭素を搾り出し、デンプンを生成します。
中国の研究において、二酸化炭素濃度がどのくらいだったのか、気になるところです。例えば、内燃機関の排気のような高濃度でなければ成立しないなら、この手法の利用範囲は限られてしまいます。

それでも、日本の未来を考えるなら、遅まきながら、この分野にも注力するべきです。




ところが、カーボンニュートラルについて、岸田文雄氏は「LED電球は、消費電力が少ない。お風呂は、シャワーよりお湯の量が少ない」と言ったとか。
省エネ、節水は、カーボンニュートラルの補助的手段として有効ではありますが、枝葉末節のレベルです。そんなことを、態々に例に挙げるとは、情けない限りです。

それに、お風呂は、シャワーよりお湯の使用量が多いので、岸田氏の認識は間違いです。
身体や頭を洗うためにお湯を使いますが、それを浴槽のお湯で賄うなら、浴槽にお湯は無くなります。当たり前ですが、身体を洗い流すために必要な分は、浴槽に溜めたお湯とは別に必要だということです。
浴槽に溜めたお湯は、身体を温めるためだけに使う分だと考えるべきでしょう。つまり、身体を温めるために使うお湯が、浴槽に溜めたお湯なのか、シャワーなのかが、両者の使用水量の違いになります。
浴槽は、200〜300lのお湯を溜めるのが一般的です。シャワーは、毎分10l程度です。浴槽の湯量は、シャワーの使用時間の20〜30分間に相当します。
仮に、家族3人(日本の平均値)として、石鹸やシャンプーなどを洗い流した後、7〜10分も延々とシャワーを浴び続けた場合に、浴槽の湯量に追いつきます。
寝台列車サンライズのシャワー給湯時間は、6分間だけです。短いように思えますが、身体や頭を洗うには、必要十分な時間です。
ということは、お風呂と同等の使用水量となるシャワー時間は、全体で13〜16分間にもなります。シャワーを浴びている
流石に、これだけの時間、浴び続けると、身体が疲れてきますよ。
これらは、考えればわかることだと思いますが、岸田氏には難しすぎるのでしょうか。


閑話休題。
カーボンニュートラルを岸田文雄氏に期待するのは、私がノーベル平和賞を目指すより無謀な気がしてきました。
それでも、地道に声を上げていきたいと思います。

また、今回のような研究事例は、機会があれば取り上げていこうと思っています。