「ガンダムのスペックはどれくらい凄い?」と題されたマグミクスの記事を見て、愕然となりました。

出てくる単位の全てを間違えていたのです。
ホント、滅茶苦茶でした。



出てきた単位を列記してみましょう。

1380  kw :ジェネレータ出力
82800 kw :上記ジェネレーターの1時間当たりの出力
1.9   mw :ビームライフルの出力
55000 kg :総推力


こんなところでした。



まずは、『kw』から始めましょうか。

発電能力を書いていることから、『kW』の誤記でしょう。
『kW』の『k』は、単位の接頭語で、『×1000』を意味します。
『W』は、仕事率の単位で、MKS系では、『kgm2 /s3 』に相当します。

問題は、仕事率の『W』を小文字で書いていることです。
これは、大文字で表すことが、SI単位(国際単位)で定められています。
『W』に関しては、小文字の『w』で書いても別の意味に誤解されにくいのですが、後述の『M』は意味が変わるので、大文字と小文字は、正しく書くべきです。
でないと、大変なことになりますよ〜! 



次の『1時間当たりの出力』は、ちょー恥ずかしいレベルです。
言いたくはないですが、この筆者のレベルの低さがわかります。

『1時間当たりの出力』を、「1380kwを1時間継続した場合のエネルギ」と解釈するなら、単位は『kWh』で、数値は『82800』ではなく、『1380』です。
つまり、『1380kWh』です。 
SI単位では、『4968MJ』です。

でもね、この筆者は、全く理解できていないのです。
「1380kwがどういう条件での数字なのかも不明」と書いています。
これは、常用出力なのか、最大出力なのか、明記されていないことを指しているのかなぁ? と解釈できないことはないのですが、その後にこんなことを書いているので、何を言いたいのか、さっぱりわからなくなりました。
「例えば1分辺り1380kwを発電するということなら、1時間で82800kwの出力になります」
どうやら、筆者は『kW』も、『kWh』も、全く理解していないようです。
ちょっと意味は異なりますが、「岩の重さが1分当たり1380kgと言うことなら、 1時間で82800kgになります」と言っているようなものです。
つまり、「条件が不明」なのではなく、「kWの意味が不明(無理解)」なのです。
『W』も「Wh』も、中学の理科で学んだはずですが、どうなってるのでしょうかねぇ

ついでに言うと「1分辺り」の「辺り」は、「周辺」との意味なので、誤字です。
正しくは、「1分当たり」です。(理系に誤字を指摘されるとは・・・)



ビームライフルの『1.9mw』は、悲しくなりますね。

『w』については、前述のとおりですので、省略します。
『m』は、『W』の前にあるので、単位の接頭語です。この場合、『m』は、『ミリ』を意味します。
『ミリ』は、『1/1000』を意味します。
つまり、『1.9mw』は、『0.0019W』の意味になります。
室内照明のLED豆電球は0.5Wくらいですから、200分の1にもなりません。
こんな出力のビームライフルで、ザクだけでなく、宇宙戦艦も撃破していったのです。(スンゲェ!)
200倍以上の出力がある豆電球なら、スペースコロニーも破壊できそうです。 
その豆電球の光を浴びても平気な人類は、ゼントラーディ人よりもタフかも・・・
(おいおい、マクロスじゃなくて、ガンダムの話だろ!!)
 
閑話休題。
後の文から、どうやら『m』ではなく、『M』の間違いのようです。
単位の接頭語の『M』は、『×1000000』を意味します。
『m』とは9桁も違います。実に、10億倍です。
これなら、武器になりそうです。

大文字と小文字では、意味が変わるので、正しく書かなければなりません。
気をつけましょう! 



総推力の『55000kg』は、ありそうな間違いです。
通常は『トン』で表現されることの方が多いのですが、厳密に言うと間違いですね。

推力の単位は、『kg』ではなく、『kgf』です。
『kg』は、質量の単位です。
推力は、その質量を地球の重力の中で支えられる力ですから、重力加速度が掛かります。
その場合の単位は、『kgf』で表します。
なので、正しくは『55000kgf』です。

『1kgf』をMKS系に変換すると、『9.80665kgm/s2 』になります。 
この単位は、後で話題にする『馬力』とも関係してきます。
ちょっと、覚えておいてください。 





世の中では、他人の失敗を指摘することを『上げ足取り』と言いますが、裏返ったウミガメのような記事ですので、『上げ足取り』もできません。
(『辺り』を指摘しているところは、『上げ足取り』かな)


単位は、大事です。
例えば、『ドル』と『ユーロ』を間違えたら、どうでしょう。
まぁ、『ドル』と『ユーロ』の差は、大したこともありませんが、『ウォン』と間違えたらどうでしょう。
価値に、約1000倍の差があります。
先程の例では、10億倍の差がありましたから、『1ドル』を『1ウォン』と交換しても、大した話ではないのかも・・・

「上げ足取り」と言う前に、単位の大切さを理解すべきでしょう。


私は、一般の方が『総トン』や『重量トン』、『排水トン』を理解できていなくても、そんなに言うつもりはありません。勘違いしやすいので、仕方ないのです。
(総トンは、容積を表しますが、よく重さとして誤用されます)
これが、船舶関係者や報道関係者が間違えたなら、話は変わってきます。
まぁ、船舶関係者が間違えることはないと思いますが、報道関係者は、よく間違えます。それなのに、一般人に教えようとしているのですから、呆れる以上に腹立たしくなります。

正しい理解は、単位に限らず、非常に大切なのです。






私は、「単位を全て間違えた」としているので、その上げ足なら、取ることができます。

記事の中に出てくる『kN』と『馬力』は、間違ってはいません。
(全部が間違っているわけではなかった!)



でもなぁ〜

『馬力』ですかぁ〜

日本語の『馬力』には、『PS』と『HP』があり、それぞれ僅かに違います。
1.3596馬力/kWで換算しているので、ここでの『馬力』は『PS』でしょう。
おそらく、偶々見付けることができた換算式を使っただけでしょう。
『馬力』は日常的に使いますが、そもそも正式な単位ではありません。
『PS』や『HP』も、SI単位の併用単位にさえなっていません。
『馬力 』ではなく、『W』を使うべきなのです。

この筆者が『HP』の存在を知っていたとは思えませんが、もう少し解説しておきます。
前述の『PS』は、別名『仏馬力』で、地球重力下で75kgの質量を1秒間に1m持ち上げる能力が『1PS』です。
『HP』は、別名『英馬力』で、地球重力下で550lb(ポンド)の質量を1秒間に1ft持ち上げる能力が『1HP』です。
『kW』から『HP』への換算値は、1.341HP/kWです。

古い方の中には、乗用車のカタログが『HP』→『PS』→『kW』と変化していったことを、御記憶の方もいらしゃるでしょう。



もう一つの『kN』は、SI単位ですし、単位としては問題ありません。
解説するなら、単位の接頭語の『k』と、力の単位の『N』に分けるくらいです。

気になるのは、F35Bのエンジン推力を、『182.38kN』としていることです。
『182.38』
何とキリの悪い数字なのでしょうか。

F35Bに搭載されているPW社製のF135-PW-600の最大推力は、41000lbf(ヤードポンド法で記述)です。これをSI単位に換算すると、先程の数字になります。
ポンドをkgに換算し、重力加速度を加味(正しくは抜く?)して、換算します。

それにしても、なぜF35Bなのでしょうね。
F35Bは、STOVL機で、リフトファンを装備しています。リフトファンの接続/断続によって、推力は微妙に違ってきます。
「F35Bの推力」と言われても、どの状態の推力なのか、確信が持てませんでした。
因みに、F35AやF35Cで使われているF135-PW-100の最大推力は、191.27kN(43000lbf)で、F135-PW-600より強力です。
ガンダムとの比較なら、こちらの方が良いように思えます。
(たぶん、『いずも』の取材で、搭載予定のF35Bの資料をもらっていたのでしょう)
「F35Bも、ガンダムも、リフト推力だから、F35AやF35Cのスラスト推力とは違う」との意見もあるかもしれません。
ただ、F35Bのリフト推力は180.82kNですので、182.38kNは間違っていることになってしまいます。
「間違いだ!」言われるくらいなら、「F35Aと比較した方がいい」と言われる方がマシでしょう。





どうやら、
この記事は、理科離れが異常に進んでいる筆者が書いたようです。
特に、WやWhは、中学の理科でも学ぶはずです。
(電気代の単位もわかっていない?!)
でも、平気で書いています。 
おそらく、御自身の理科離れを理解していないのでしょう。
 
理科の実力は、ガンダム好きの小学生レベルです。
同時に、小学生が読むべきレベルにも達していません。


こんなレベルなのに、公共のネットに記事を出す(おそらく原稿料を受け取っている)神経がわかりません。
これで、原稿料が入ってくるなんて、世の中を渡っていくことはチョロいのですね。



筆者が理解できているとは思えませんが、単位は、物理の理解を広げる手助けにもなります。

例えば、馬力をMKS系で表すと、『kgm2 /s3 』になります。
推力の『kgf』をMKS系で表すと、『kgm/s2 』と紹介しましたが、単位がよく似ていますね。
馬力の単位を推力の単位で割ると、『m/s』が残ります。
これは、速度の単位です。
馬力の単位の一つ『PS』は、「地球の重力下(9.80665m/s2 )で75kgの質量を1秒間に1m持ち上げる能力」と紹介しました。この中の「1秒間に1m持ち上げる」は、速度の1m/sです。
つまり、馬力は、推力に速度を掛けたものだとわかります。
 
このように、単位は、異なる物理量の関係性を理解する手助けにもなるのです。

これを知れば、単位を正しく理解し、記述することの大切さがわかり、『上げ足取り』なんて言えなくなると思います。
(こんな説明があれば、小学生には難しくても、中学生に有益な記事になる)



怖いのは、このレベルの記事が、無条件に世の中へ出てくることです。
それは、筆者の周辺の人々も、同レベル以下であることを示しています。
政府は、『技術立国』を標榜していますが、私が見る限り、コロナ対策から見えてくる政府の実力も、同レベルでしょう。

真の問題は、自身の理科離れを理解できていないことです。
過去にも書いていますが、『理科離れ』を指摘する政府やメディアの『理科離れ』こそ、この問題の深刻さを示しているのです。


日本は、先進国の座から滑り落ちつつあります。
それを防ぎたいため、当ブログを運営しています。

御興味がある方は、他の記事も御覧ください。





【追伸】
私は、このネットニュースを7月26日の朝に見つけ、下書きをしていました。
改めて確認したところ、単位は訂正していました。ただ、単位の意味は理解していないらしく、「1分辺りの〜」のくだりは、訂正されていませんでした。
なんと、「辺り」も訂正していませんでした。

私が見た時点で、単位の間違いを指摘するコメントで荒れていましたから、慌てて単位を見直したのでしょう。
ですが、単位の意味は理解できていないので、単位の間違いだけを訂正したのです。

表面を取り繕うより、もっと根っこから見直していく必要があります。
そのためには、自らの『理科離れ』を反省するところから始まります。

でもねぇ〜

本人は『理科離れ』を自覚していないどころか、世間の理科離れを救ってやろうと思っているのですから、危機的です。

何とかならないものかと、頭を抱えています。