以前から、地球温暖化の対策として、鉄道の利用を訴えてきました。

日本は、鉄道大国のようで、貨物輸送の面では、かなりの後進国なのです。
旅客輸送では、日本は世界1位なのだそうです。
ところが、貨物輸送では、世界で32位なのだそうです。


地球温暖化対策では、実は『省エネ』がキーワードになります。

例えば、現状の経済を動かすために、5億トン/年の石油が必要だとします。
このまま脱炭素を図ると、代替エネルギは、石油換算で5億トン分が必要です。
もし、省エネで、石油使用量を3億トンに減らせたなら、代替エネルギは、石油換算で3億トン分を用意するだけで済みます。

陸上の貨物輸送は、トラックが主となっていますが、これを鉄道に置き換えると、トンキロ当たりの消費エネルギは、ざっと1/10に減らせるのです。
トラック輸送の全てを鉄道に置き換えることは不可能ですが、都市間の輸送は、原則として鉄道と船舶に移行させるべきです。


似た考えを持つ方は、他にもいらっしゃいます。
その中でも、多くの方が「新幹線の貨物輸送」を主張されています。
私も、新幹線による貨物輸送には、大いに関心があります。


ですが、新幹線による貨物輸送を実現するには、考えなければならないことがあります。

その一つが、「どんな方法で荷物を運ぶのか?」です。

輸送できる種類を増やすために、コンテナを積みたいところです。
ですが、コンテナを積むとなれば、積み下ろしのための貨物駅が必要になります。
貨物駅の場所の確保と、大工事が必要になります。
可能であれば、在来線と併設し、右から左に積み替えられるような構造にするべきです。

コンテナの積み下ろしには、架線のない区間に進入する必要があります。
コンテナを輸送する電車であるスーパーカーゴは、最後尾の車両の後端のパンタグラフで架線の端まで進み、架線のない区間に車両のほぼ全てを押し出します。
新幹線の貨物駅を作る場合、架線がない区間は、充電池を使うのがベターでしょう。

また、ダイヤの問題も、より深刻になります。
と言うのも、新幹線は夜間に保線工事を行うので、貨物も昼間の輸送になります。
貨物列車を旅客ダイヤの中に組み込む場合、各駅で貨物を下ろすのでは、定時制を維持するのが難しくなります。
また、各駅で荷下ろしをすると、速達性も低下してしまいます。

新幹線でコンテナを輸送するのであれば、輸送区間を限定するしかありません。基本は、2点間の往復輸送です。
東海道・山陽・九州新幹線なら、東京、名古屋、大阪、岡山、広島、福岡、熊本、鹿児島の中から選択することになると思います。
背景地も考慮すると、東京-大阪、東京-岡山(中国・四国)、東京-福岡(九州・山口)が有望でしょうか。
東北・北海道新幹線では、東京-仙台くらいでしょう。函館では、札幌延伸時に無駄になります。
秋田新幹線や山形新幹線は、貨物駅新設費と輸送量や速度を考えると、メリットはないでしょう。仙台で在来線に積み替えれば良いのです。
上越新幹線では、東京-新潟のみでしよう。
北陸新幹線では、全線開通時は、東京-大阪の代替ルートの価値はありますが、貨物駅新設の費用を考えると、メリットはないでしょう。


このように、新幹線で通常のコンテナ輸送をするのは、メリットが薄いように思います。

ならば、他にどんな貨物輸送が考えられるのでしょうか。

コンテナはコンテナでも、航空コンテナか、新幹線専用に小型コンテナを製作し、軽量の荷物を現状のホームから積み下ろしするのが、現実的だろうと思います。

車両は、現行の車両を改造して専用車両を製作し、積み下ろし時間の短縮を図るのが良いでしょう。

改造するのは、先頭車両か最後尾車両が良いでしょう。ホームの端なので、ホーム上にコンテナがあっても、邪魔になりにくいはずです。
新幹線は、奇数号車にトイレがあるので、1号車を、貨物車に改造すると、2両目の乗客はトイレまでの動線が長くなってしまいます。
なので、トイレがない最後尾車両が、貨物車への改造に適しているようです。

コンテナサイズは、エレベータに載せられ、新幹線の車両の中でもハンドリングが楽なサイズになります。
輸送対象の多くは、宅急便になると思います。
宅急便は、3辺合計200cm以内、重量30kg以内です。
底面がA1サイズ(約84x60cm)、深さ50cmで、上限になります。
コンテナは、これを積載できるのが良いので、外形で幅60〜70cm、長さ190cm、高さ150cm程度が扱いやすいと思います。
長さの190cmは、ストレッチャーより僅かに小ぶりです。
エレベータのほとんどは、ストレッチャーに対応しています。なので、ストレッチャーの長さに合わせておけば、既存のエレベータを利用できる可能性が高まります。
車両とホームの間や、エレベータの隙間を乗り越えるため、車輪の径は充分に確保したいし、できれば自走能力も欲しいところです。
なので、床下は25〜30cm程度を確保し、重い機器類を配して重心を下げます。
これで、内寸は、60x180x120cm程度を確保できます。
本体の重量は、100kg以内に抑えたいところです。荷物は200kg以内とし、合計で300kg以内に収めます。
エレベータの多くは、500kg以上の重量に耐えられます。300kgならば、作業者と一緒に乗れます。

新幹線の16号車の客室の長さは、約15mです。
これを三等分し、5m毎の区画に分けます。
それぞれの区画には、中央の左右に扉を新設し、扉の間を通路とします。
通路の左右(進行方向では前後)に、コンテナ置き場を設け、それぞれ4個ずつ、車両全体では24個を搭載可能とします。
コンテナは、扉から入れると、通路で向きを90度変え、所定の位置に収めます。
24個のコンテナは、最大で合計7200kgになります。これは、成人男性100人分です。
新幹線は、1両で100人以上が乗れるので、これくらいの重量では、床の補強も必要ないでしょう。扉の追加等の改造による重量増を含め、車体や台車の強度、あるいは重心位置への影響は、許容範囲に収まりそうです。

貨物新幹線は、東海道新幹線なら、こだまに組み込むのが良いと思います。
各駅で積み下ろしできるし、のぞみやひかりの通過待ちで停車時間も長めです。
こだまは、新大阪止まりなので、九州までの直行便を考えるなら、ひかりの方が良いかもしれません。
新大阪まではのぞみと同じ運転とし、そこから先は各駅に停車させるダイヤも、検討の余地があります。



色々考えてきましたが、外野が考えるより、実現は難しいようです。

ネットニュースには、「新幹線でコンテナ輸送をするべきだ」との記事もありましたが、それ以上に掘り下げる内容ではありませんでした。
今回、新幹線で本格的な貨物輸送を行う方法を考えてみましたが、容易ではないことだけがわかったような気がします。

ここに書いた内容は、一つの案であり、実現するには、様々な課題が出てくるでしょう。
例えば、駅の構造です。
新幹線用コンテナをどこから駅に入れるのか、駅構内からホームへはどう運搬するのか、作業の自動化はどうするのか、車両の改造は可能か、新幹線専用コンテナのトラックへの積み込みはどうするのか、トラックで配送先に直行できるのか、何にどれくらいの費用がかかり、かつ回収できるのか、等々、課題は山積みです。

これらを考え、新幹線による貨物輸送を実現したいですね。