小選挙区制は、得票率と獲得議席数が一致せず、1票の重みは、与党に投票した場合と、野党に投票した場合とでは、約3倍の差があります。
最高裁では、1票の重みが2倍以上になる場合は、違憲であるとの判例があり、小選挙区制度は、違憲状態を生み出していると言っても良いのです。
そこで、当ブログでは、小選挙区制度の見直しの検討を始めています。

前回は、小選挙区制度に代わる選挙制度を検討する上で考慮すべき条件と、条件の一つである民意の反映について考えました。
今回は、最高裁の判例について考えたいと思います。



2.最高裁の判例

古くは、1976年に、1票の格差について、違憲判決が出ています。
現在では、1票の格差が2倍を超えた場合は違憲と判断されています。

個人的には、この判例は、納得していません。
「無視しろ!」とまでは言いませんが、大した意味はないと考えています。

そう考える理由の一つが、投票率です。

2022年の参議院選挙では、福井県と神奈川県や宮城県とでは、1票の重さが3.03倍あったため、違憲判決が出ています。
ただ、これは有権者数に対するもので、投票数で1票の格差を計算すると、神奈川県は2.99倍、宮城県は2.67倍に縮まります。
1票が重い選挙区は投票率が高く、軽い選挙区は投票率が低い傾向が見られます。
そんな観点からも、1票の格差は見ておきたいところです。


もう一つの理由が、地方の意見の吸い上げです。
国政選挙ですが、地方の声を国政に届けたいとの意見は、根強くあります。
アメリカの上院のように、都道府県単位で議席を与える方式は、1議席当たりの有権者数が都道府県の人口に比例することになります。

アメリカの50州の人口は、最多のカリフォルニア州(3956万人)と、最少のワイオミング州(58万人)では、70倍以上の差があります。
上院の議席数は、どちらの州も2議席ですから、1票の格差は、70倍もあるのです。
日本は、最多の東京都(1404万人)と、最少の鳥取県(54万人)では、約26倍もの差がありますが、アメリカほどではありません。
ですが、最高裁の判例を踏まえると、アメリカの上院のような選挙制度は不可能です。

1票の格差に縛られてしまうと、都道府県単位に議席を割り当てることは認められず、選挙制度の改革の選択肢を狭めます。



ちょっと余談になりますが、小選挙区制と比例代表制の混在も、選挙制度を考える上で、厄介な問題です。

参議院は、議席の半分しか改選しないため、人口が少ない県では、1議席当たりの有権者数が減っています。
これに加えて、選挙区選挙と比例代表制の2種の選挙制度が混在しています。
比例代表制の議席数は、全体の4割なので、選挙区選挙で2議席ならば、比例区を含めると3.3議席が割当たっている計算です。
最も人口が少ない鳥取県は、人口が57万人なので、参議院の1議席当たりの有権者数は、17万人余りになります。
これをベースに参議院の定数を決めると、730議席になり、現状の3倍にもなります。
そこで、苦肉の策として、鳥取県と島根県を一つの選挙区として、1議席当たりの有権者数を調整しています。

このような現状を見ると、参議院で比例代表制と小選挙区制の両方を混在させ続けることを、再考すべき時期に来ているように感じます。



閑話休題。

選挙制度を改善する上で、最高裁の判例は、中々の足枷です。
ですが、憲法を改正しない限り、この判例を無視することはできません。
また、自民党の憲法改正案を見ても、この判例を覆すような提案は見当たらないので、この先も判例に従い、1票の格差は2倍以内に収めなければなりません。

小選挙区制は、どんなに選挙区を細かく区切っても、最大で2倍の格差が生まれます。
そのため、小まめに選挙区の区切りの見直しが必要になります。
ですが、選挙区を変更することは、地域側から見ると、「前回の選挙はA選挙区だったが、今回の選挙はB選挙区になった」といったケースも生まれ、「地域の代表を選ぶ」との意味合いが薄れてしまいます。
これに対して、複数の議席を持つ場合、選挙区の区切りは変更せず、議席数の増減で格差を是正できるので、『地域の代表』の意義を維持しやすくなります。


個人的には、『地域の代表』との考え方は希薄です。
国政選挙なので、地方の意見を国政に届けることと同様に、外交を含めた国家の運営もあります。
日本国憲法は、基本的には地方分権の考え方なので、国政選挙は、地域の代表より国家運営を重視するのが、私の個人的な考えです。

小選挙区制では、選挙区が狭くなるので、狭い範囲の少ない有権者の考えが反映されやすくなります。立候補者は、その狭い地域に合わせた公約を出すことになります。
これでは、国全体の政治は軽視されます。
また、不祥事を起こした議員も、地元への利益誘導をしておけば、再選されます。
これも、小選挙区制の弱点と言えます。



日本国憲法、二院制を採用しています。
二院制の価値を引き出すためには、それぞれ議会を構成する議員の価値観に違いを作ることが求められます。
これを実現するためには、衆議院と参議院を異なる選挙制度にすることも、一案です。




今回は、最高裁の判例や憲法等から、選挙制度を考えてきました。

次回は、もう少し踏み込み、選挙区の定数の妥当性について、考えていこうと思います。