以前にも、「人命と原発廃止のどちらを優先する?」と題した記事を書いていますが、
実際には、有識者(自称も含む)の多くは、原発は廃止すべきとしています。
廃止の理由は、原発事故の過酷さと、地震大国の日本で原発事故を防ぎきれないとする
考え方によるものです。
また、原発は不要とする根拠は、自然エネルギーで代替可能だとの考えに基づくようです。

地震大国である日本で、原発を地震から完璧に守り切ることは、確かに不可能です。
でも、それだけで原発廃止を唱えるのは、少々偏っているように思います。
大切なのは、「リスク・トレードオフ」の考え方でしょう。
これについては、いずれ「温暖化」のカテゴリーに記事を書くつもりです。

もう一つの「再生可能エネルギーで代替可能」との考えは、かなり幼稚に感じます。



「発電」を「運送業」に、「発電所」を「運転手&輸送手段」と置き換えて
考えてみましょう。
火力発電は、大型トラックとどんな仕事もこなす運転手との組み合わせです。
欠点は、エコドライブが全くできないことです。
原子力発電は、大型トラックと勤勉でエコドライブも得意な運転手との組み合わせです。
欠点は、融通が利かないところで、常に一定の荷物を運びます。
太陽光発電発電は、アルバイトが運転するバイク便です。
エコですが、運ぶ量が少なく、割高で、昼間に気が向いた時だけ仕事をします。
また、上司の言う事は、一切聞きません。
風力発電は、アルバイトの飛脚です。時間帯を問わず、気が向いた時だけ仕事をします。
こちらも、上司の言う事は、一切聞きません。

あなたが、運送会社の社長なら、勤勉な運転手(原子力発電)を止めさせてまで、
上司の言う事を全く聞かないアルバイト(太陽光発電)を雇いませんよね。
では、あなたが運送会社を選ぶ時はどうでしょうか。
アルバイトが多く、いつ運ばれるか分からない運送会社を、積極的には選ばないでしょう。



さて、発電に話題を戻しましょう。

現在は、太陽光発電や風力発電の割合は低いので、電力の不足や過多が起きていません。
これは、火力発電所等の出力を調整して、需要に加えて太陽光発電等の発電量の変化を
吸収できるためです。
ですが、太陽光発電が盛んな九州電力では、既に不安定な太陽光発電等の電力を
吸収できなくなり始めているのです。

蓄電を進めれば、太陽光発電等の再生可能エネルギーの利用率を向上することができる」
との主張をする人もいます。
それ自体は間違っていませんし、小規模の太陽光発電では推進すべきとも思っています。
ですが、原子力発電所を太陽光発電等の自然エネルギー発電で代替するために、
どれくらいの充電量を用意すれば良いのかを、考えている方は居ないようです。
なにせ、原発を停めるために再生可能エネルギー発電を利用しようと言うのですから、
充電量は、原発の発電量を軽く受け止められるだけの量は確保しなければなりません。

充電池は、10kgで1kWh程度を蓄電できます。
原発1基が1日に発電する量は、約3000万kWhとなりますから、
原発1基の1日分を蓄電するためには、30万トンの充電池が必要になります。
原発1基のたった1日分でも30万トンですから、国内の原発全てとなると1500万トンを
軽く超えてしまいます。
実際には、最低でも数日分、できることなら1ヶ月以上の充電量が望ましいので、
充電池の量は、1億トンを超えるかもしれません。

実際に必要になる充電池の量がどれくらいになるのか、研究者に聞くしかありません。
ただ、「蓄電すればいい」なんていう簡単な解決は、無理でしょう。
その辺りを考えない意見は、私には幼稚に聞こえてくるのです。