国会では、裁量労働制を巡る議論が行われていますが、雇用者側と関連法案を優先しようとする政府側と、揚げ足を取ろうとする野党側の議論は、どちらも中身が真空並みの薄さです。

 

そもそも、裁量労働制は、労働時間だけに裁量権を与えようとしており、仕事の内容と量、そして仕事を進める上での裁量権が議論されなければ、裁量労働制の適用範囲の拡大は意味を持たないのです。

また、政府が言うように(データは信憑性が無かったが)、裁量労働制の適用者は非適用者より労働時間が短いとしても、裁量労働制で労働時間が短くなる根拠にはなり得ません。
野党には、この辺りを追及してほしかったが、国会では不毛な議論が繰り返されました。


大塚耕平議員:「総理、スーパーのレジ係が倍の速度で仕事をやったら生産効率は上がると
        思いますか?」
安倍晋三首相:「上がると考えます」
大塚耕平議員:「上がるわけないでしょう。
        レジが倍の速度になっても客の購買力は変わらない。
        議論が噛み合わないはずです。
        ここを無視して労働生産性だけ議論しても無駄だ」


無毛さが溢れていますね。
まず、言葉の定義を確認しましょう。
生産性(労働生産性)は、以下の式で算出されます。
<式1>労働生産性(千円/人)=付加価値(千円)/社員の平均人数

別の式もあります。
<式2>労働生産性(千円/時間)=付加価値(千円)/(社員の人数×平均労働時間)


大塚議員は、<式1>を基にした考えと推測されます。
これに対し、安倍首相は、<式2>に基づいて回答したものと推測されます。
「議論が噛み合わない」のは、大塚議員がこの違いを無視しているためと思ったのですが、
「レジ打ちのスピードが倍になっても、そのスーパーの売上は増えない」とも言っており、
どうやら大塚議員は 労働生産性売り上げ と考えているようなのです。
売り上げは、<式1>でも<式2>でも付加価値に相当するので、明らかな間違いです。
また、裁量労働制を議論しているのですから、<式1>で議論する意味がありません。
「議論が噛み合わない」と言うより、「噛み合わない議論を吹っかけている」と言った方が適切な表現のように思えます。

ちなみに、<式1>を正しく解釈すると<式2>と同じ意味になり、大塚議員の理解がそもそも間違っていることが分かります。
<式1>の分母が[社員の平均人数]となっているところに注目してください。
従業員が10人の会社を考えましょう。
この会社の[社員の平均人数]は、10人ですね。
わざわざ[平均人数]と言う必要はありません。
では、パートタイマが2人居て、それぞれ午前のみと午後のみしか働かなかったとします。
その場合、社員は10人でよいのですが、[社員の平均人数]となるとどうでしょうか。
どの時間帯を取っても、社員は9人しか居ないことになります。
これが、[社員の平均人数]になるわけです。
<式1>の分母は[社員の平均人数]となっていますが、本質的には総労働時間と考えるべきなのです。
式の意味を考えず、言葉の意味に振り回されてはいけませんね。

冒頭の例に戻りましょう。
社員は10人として、その内の2人がレジ係として、終日の勤務をしていたとします。
レジ機械の更新で、2倍の速度でレジの仕事ができるようになったとします。
レジは暇になるわけですから、レジ係を1人に減らすか、午前と午後に分けたパート勤務に変えると、[社員の平均人数]は9人となり、労働生産性は向上するのです。
こんな話をすると、「1人を解雇するのか!」と言われてしまいますが、その考えは了見が狭いように思います。

ここからは、「2100年の日本の姿」を考えながら、話していきましょう。


私は、2100年には日本の人口を6000万人程度で安定させるべきと考えています。
現在の半分の人口です。

私の考えとは関係なく、これからの日本は少子化による労働力不足が続くでしょう。
となれば、10人の社員で行っていた仕事を、9人、あるいは8人、最終的には5人でこなしていかなければならなくなるのです。
つまり、「解雇」するのではなく、「不足する労働力に対応していく」との考えなのです。

残念なことに、裁量労働制の議論の中で、生産性の向上を阻害する要因と、それを除去する政策については、何一つ議論されていません。
政府は、裁量労働制を適用すれば労働時間が減るかの如く言っていますが、それはないと考えるべきです。
例えば、全員が裁量労働制ではないスーパーにおいて、全員を裁量労働制に切り替えたとしましょう。
そのスーパーは、労働時間が減るのでしょうか?
同じ従業員で、仕事内容の変化もなく、仕事量の変化もないのに、裁量労働制にしただけで労働時間が減ると考える方が、馬鹿でしょう。
もっと別のところに、生産性が上がらない要因があるのです。
その辺りも、別の機会に触れていこうと思います。

まあ、今国会では裁量労働制は法案から削除されましたが、今後の国会でも成立まで繰り返し法案が出されることが予想されます。
裁量労働制に限らず、生産性を向上させる政策を議論していかなければなりません。
ただ、国会はアテにならないので・・・


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