小選挙区制は、得票率と獲得議席数が一致せず、1票の重みは、与党に投票した場合と、野党に投票した場合とでは、約3倍の差があります。
最高裁では、1票の重みが2倍以上になる場合は、違憲であるとの判例があり、小選挙区制度は、違憲状態を生み出していると言っても良いのです。
そこで、当ブログでは、小選挙区制度の見直しの検討を始めています。
前回は、現状把握に努めました。
今回は、小選挙区制度に代わる選挙制度を検討する上で、考慮すべき条件を確認します。
1.民意の反映
そもそも、4割の得票率で2/3の議席を獲得できる小選挙区制の問題を、解決することが目的です。
得票率に近い議席配分になるようにしなければ、制度変更の意味がありません。
2.最高裁の判例
古くは、1976年に、1票の格差について、違憲判決が出ています。
現在では、1票の格差が2倍を超えた場合は違憲と判断されています。
新しい選挙制度を考える上で、これは無視できません。
従って、アメリカの上院のような選挙制度は、採用できません。
3.候補者の選択の容易さ
一般的に、議員定数の3〜4倍程度の立候補があります。
2021年衆議院選挙の小選挙区では、289議席に対して936人が立候補しました。
仮に、衆議院選挙を全国区にした場合、465議席に対して、1500人以上が立候補することになります。
こんなに立候補者が多いと、全員の公約を確認することは困難です。
立候補者の公約を確認できる範囲に収まるように、選挙区の定数を絞る必要があります。
公約の公知には、定数以外の工夫もあって然るべきでしょうが、ここでは定数の観点のみから検討を続けます。
取り敢えず、この3点について、検討していきます。
今回は、民意の反映について、選挙区の定数から考えてみたいと思います。
1.民意の反映
小選挙区制のみにある欠点として、低い得票率でも当選し、それ以外の投票を無駄にしてしまうことです。
小選挙区では、得票率が50%を越えれば、当選します。
二人区(定数2名)なら、得票率が1/3を越えれば当選します。定員が2名なので、合計すれば、投票の2/3に相当します。
三人区(定数3名)なら、得票率が1/4を越えれば当選します。合計で3/4です。
この計算は、必ずしも正確ではありませんが、定数増に比例して当選者に投じられる票の割合が増す可能性を示しています。
中選挙区制の時の定数と立候補者について、青森県と大分県のデータが見つかったので、定員を超える立候補者数を一次回帰し、定数に対する立候補者数を推定してみました。
その結果、ざっと以下のような予測ができました。
・定数 1人 立候補者数: 3.8人
・定数 2人 立候補者数: 5.2人
・定数 3人 立候補者数: 6.7人
・定数 4人 立候補者数: 8.1人
・定数 5人 立候補者数: 9.6人
・定数 6人 立候補者数:11.0人
・定数 7人 立候補者数:12.5人
・定数 8人 立候補者数:13.9人
・定数 9人 立候補者数:15.4人
・定数10人 立候補者数:16.8人
これからわかるのは、定数が2倍になっても、立候補者は2倍にはならないことです。
なぜ、このようなことが起きるかというと、定数が増えても、各政党が、各選挙区の定数分の候補者を擁立しないからです。
小選挙区の場合、ほとんどの選挙区に候補者を擁立します。
例えば、2021年の衆議院選挙では、自民党は289選挙区に277人の候補者を擁立しています。(擁立率95.8%)
これに対し、定数10人の選挙区に、候補者を10人も擁立することはありません。
ここまで候補者を出してしまうと、組織票が分散し全員が落選する危険があるからです。
なので、選挙区の定数が増えれば、党としての得票率に近い数の候補者に絞り込まれるので、定数が増えても、立候補者の増加は、それより少なくなるのです。
さて、この立候補者数の推定値をベースに、当選の最低得票率を算出すると、次のようになります。
・定数 1人 最低得票率:26.4%(合計得票率26.4%)
・定数 2人 最低得票率:19.1%(合計得票率38.2%)
・定数 3人 最低得票率:14.9%(合計得票率44.8%)
・定数 4人 最低得票率:12.3%(合計得票率49.1%)
・定数 5人 最低得票率:10.4%(合計得票率52.1%)
・定数 6人 最低得票率: 9.1%(合計得票率54.3%)
・定数 7人 最低得票率: 8.0%(合計得票率56.0%)
・定数 8人 最低得票率: 7.2%(合計得票率57.4%)
・定数 9人 最低得票率: 6.5%(合計得票率58.5%)
・定数10人 最低得票率: 5.9%(合計得票率59.4%)
小選挙区制では、26.4%の得票で当選できる計算です。
これが、定数2人となると、それぞれの得票率は19.1%ですが、合計すると、38.2%の投票が国政に活きる計算です。
ここで、小選挙区制より得票率が下がる事を問題視する必要はありません。
定数が1人から2人に増えることは、有権者も定数に比例して増えることを意味します。
従って、定数2人の選挙区の得票率19.1%の時、その得票数は、小選挙区の38.2%の得票率の時の得票数と同数になります。
上記では、定数10人で、合計得票率が約60%になることを示しています。
ならば、もっと定数を増やせば、合計得票率は高くなるはずです。
でも、残念なことに、衆議院の全議席を一つの選挙区にまとめても、合計得票率は69%弱にしかなりません。(小選挙区289議席でも、全議席465議席でも、ほぼ同率)
当ブログによる選挙制度の見直しの目的は、議席数を得票率に近付けることです。
そのために、高い確率で、投票が議席に結び付くように、選挙区の定数を増やすことを考えています。
選挙区の定数が10人を超えると、定数の増加が合計得票率に与える影響は、無視できるくらい小さくなります。
なので、定数が10人以上を検討する価値は、かなり低いでしょう。
一方、定数が4人以上なら、合計得票率も概ね50%になります。
これらから、各選挙区の定数は、4〜10人であれば、民意の50〜60%を選挙結果に反映できると考えて良いと思います。
次回からは、様々な提案をしながら、日本に相応しい選挙制度を考えていこうと思います。
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