衆議院の選挙改正案の第2案です。

テーマに反して、今回は、小選挙区制そのものの改良を考えていきたいと思います。



小選挙区制には、いくつも弱点がありました。
その中で、各選挙区の定数が『1』で固定されているため、1票の格差を小さくする方法が、選挙区の区割りの変更しか存在しないことでした。
参議院選挙では、合区を実施していますが、それでも3倍を超える格差を産んでいます。
参議院の改選議席数が衆議院の1/3しかないので、1票の格差を調整しにくいのです。

従って、参議院選挙で小選挙区制を続けることは困難です。


今回は、衆議院選挙に限定して、小選挙区制の改良を検討してみたいと思います。




【衆議院 選挙制度(案2)】

〈概要〉
現行通り、小選挙区は289議席とする。
比例区の176議席を廃止し、同数の復活議席を用意し、惜敗率or得票率の上位から当選とする。

〈選挙区〉
全国を289の小選挙区に分ける。

(立候補の条件)
衆・参両院での在任期間が通算20年を超えている場合、新たに衆議院で立候補できないものとする。(参議院は可とする)



2021年の衆議院選挙では、小選挙区936人、比例区855人が立候補しました。
実際の立候補者は1180人だったので、重複立候補は611人だったことになります。
比例区の71.5%が、重複立候補でした。

ここまで重複立候補が多いのなら、比例区ではなく、復活議席に割り当てる方が、死票を減らす効果が期待できます。




小選挙区制の欠点の一つが、死票が増えることにあります。
例えば、49%の得票率でも、対立候補が51%を得票していたら、落選になります。
この場合、投票の49%は、死票になってしまいます。

比例区で復活当選の可能性は残りますが、本来の比例区選挙は、政党支持率に見合う議席を配分する選挙制度であり、復活当選を目的としていません。
また、復活当選した議席数と同数だけ、比例区の候補者は当選できなくなります。
候補者個人で見れば、『復活』ですが、有権者からすると、小選挙区で投票した票は無駄になっています。

なので、復活当選させるのなら、それのみを目的とした選挙制度を考えるべきです。



さて、復活の方法です。
2案あるので、順番に説明します。


〈復活当選方式(案1)〉

惜敗率の上位から、当選としていきます。
惜敗率は、当選者の得票数を100%とした時、次点以下の候補者の得票数が何%に相当するかを示したものです。

       [当該候補者の得票数]
[惜敗率]=─────────────
        [当選者の得票数]

この惜敗率が、全ての小選挙区の落選者の中で、上位から復活当選させていきます。

具体的な例で見ていきましょう。


仮に、3つの小選挙区があるとします。
α選挙区には、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんが、β選挙区には、Eさん、Fさん、Gさん、Hさんが、γ選挙区は、Jさん、Kさん、Lさん、Mさんの、それぞれ4人が立候補したとします。
これに、復活議席2議席を加えた、合計5議席を改選するとします。

α選挙区の各候補者の得票率は、Aさんが50%、Bさんが40%、CさんとDさんは5%だったとします。
β選挙区では、Eさんが33%、Fさんが30%、Gさんが29%、Hさんが8%だったとします。
γ選挙区は、Jさんが27%、Kさんが26%、Lさんが25%、Mさんが22%だったとします。

小選挙区の当選者は、Aさん、Eさん、Jさんの3人です。
次点以下の惜敗率は、Bさんは80%、CさんとDさんは10%、Fさんは91%、Gさんは88%、Hさんは28%、Kさんは96%、Lさんは93%、Mさんは81%です。
従って、復活当選するのは、KさんとLさんになります。

この時、3選挙区とも投票数が同じなら、投票の54%が、当選者に投じられたことになります。
つまり、死票は46%になります。
(上記の条件下による死票率であって、普遍的な数値ではありません)



どうでしょうか。
ちょっと釈然としないのではないでしょうか。

惜敗率は、混戦となった選挙区ほど、有利になります。
有力候補が居ない場合に混戦になりやすく、結果的に、泡沫候補が棚ぼた当選します。


仮に、この地域が定数5議席の中選挙区で、得票率が変わらないなら、Jさん、Kさん、Lさんは落選し、Aさん、Eさんの他に、Bさん、Fさん、Gさんが当選になります。
この場合、死票は39%まで減ります。

そこで、死票を減らす案を提案します。



〈復活当選方式(案2)〉

得票率の上位から、当選としていきます。
得票率は、有効投票数を100%とした時、候補者の得票数が何%に相当するかを示したものです。

       [当該候補者の得票数]
[得票率]=─────────────
      [当選選挙区の有効投票数]

この得票率が、全ての小選挙区の落選者の中で、上位から復活当選させていきます。

前述の例で見ていきましょう。


小選挙区の当選者は、Aさん、Eさん、Jさんで同じです。
復活当選は、BさんとFさんになります。
この場合、死票は40%になります。
死票を減らす目的では、悪くない結果です。


死票を減らす効果は、得票率の方が良いとしても、惜敗率の方が、有権者の支持を得ているようにも見えます。
果たして、惜敗率の方が有権者の支持を集めているのでしょうか。

仮に、δ選挙区には、有力候補が2人居て、最終的に得票率が51%対49%で決着したとします。
ε選挙区は、4人の候補者が得票率26%、25%、25%、24%で決着したとします。
この場合、δ選挙区の惜敗率は96.08%ですが、ε選挙区の惜敗率は96.15%になるため、半数近い支持を得たはずのδ選挙区の次点の候補者は、復活できません。
ε選挙区の4人の中で、なぜ抜け出ることができなかったのでしょうか。
惜敗率は高いのですが、対抗馬は強敵だったのでしょうか。
強敵に善戦したのなら、惜敗率以上に、得票率が高まるはずです。

どちらかと言えば、私は(案2)を推したいところです。



ですが、小選挙区+復活当選制の選挙制度にも、大きな欠点があります。

小選挙区制は、最大勢力の政党に有利に働きます。
復活当選制は、次点落選者に有利ですから、第二党に有利に働きます。
ですが、第三党以下の政党は、復活当選の可能性は低く、単なる小選挙区制よりも、二大政党制への変化圧力が掛かるはずてす。





正直なところ、この【衆議院 選挙制度(案2)】を書き始めた頃は、「中々の妙案じゃね?!」と思っていました。
ですが、掘り下げていく中で、小選挙区制の改良は難しいと思うようになりました。

まず、復活当選と言いつつ、実質的には小選挙区から二人区に変更するようなものです。
2人目の当選者の選び方が、柔軟になるだけです。

もう一つは、小選挙区制が持つ、実質的な一党独裁や、二大政党制への変化圧力です。
今回の改良案も、二大政党制への変化が起きやすい性質を持っています。
一党独裁や二大政党制は、政策が極端化しやすくなるので、このような状況は避けた方が、国民の利益になります。

そんなことを考えると、やはり小選挙区制は廃止した方が良さそうです。



次回は、また別の選挙制度を提案したいと思います。