「青函トンネルを、もう一本、掘ろう」との声は、北海道新幹線の工事が始まった頃から、本格的に聞かれるようになりました。
「第二青函トンネルは、道路トンネルにすべき」と言う知識人もいます。
ですが、道路トンネルは、現実的ではないですね。
青函トンネルは、建設開始から完成まで、実に27年もの歳月が掛かりました。
それだけの難工事だったわけです。
ほぼ同規模のユーロトンネル(ドーバー海峡トンネル)は、着工から開通まで8年しか掛かっていないのとは対照的です。
道路トンネルとなると、上りと下りを分離するため、最低でも2本のトンネルを平行に掘る必要があります。
(※青函トンネルは、本坑以外に、小断面の先進導坑と調査坑があるが、基本的に海底部のみに掘られている)
また、換気用のトンネルも必要になるため、本坑以外に1本以上のトンネルが必要になります。特に、電気自動車への移行が完了するまでは、鉄道トンネルとは桁が違う換気量が必要になります。
また、鉄道トンネルより、道路トンネルの方が、1.5倍ほど断面を大きくする必要があります。
ただし、傾斜は制限が緩むため、トンネルの全長は、最大で2割くらい短くできます。
全長が短くなるとしても、道路トンネルを掘削する場合、工費は、鉄道トンネルより高額になることは確実です。
では、鉄道トンネルは既にあるのに、なぜ、もう一本、鉄道トンネルを掘るべきなのでしょうか。
一つには、本州と北海道の間の貨物輸送が、青函トンネルを利用していることです。
新幹線は、実力通りなら14分で通過できますが、貨物列車は、青森側の新幹線と在来線に分岐点から北海道側の分岐点までの通過に約1時間も掛かります。
貨物列車が通過中は、風圧の関係で、新幹線は減速しなければなりません。
そのため、時間帯を分けて通行させるのですが、その分、深夜の整備もやりにくくなっています。
このような事情から、新幹線と貨物列車の分離が求められています。
さて、自動車トンネルの場合、第二青函トンネルは、不都合なことが少なくありません。
まず、長さが最低でも40km以上になってしまう点です。
高速道路は、傾斜を3%以内にすることが求められています。
これを超える場合は、登坂車線が必要になりますが、トンネル内に登坂車線を設けることは、現実的ではありません。
トンネルの最深部が海面下240mにもなるため、その深さまで下りるのに8km、上るにも8kmが必要になります。また、海底部が24〜25kmにもなるため、最低でも40km以上の長さになります。
この長さになると、速度制限が80km/hのトラックは、通過に30分以上も掛かります。
しかも、途中にパーキングエリアを作れないのです。
パーキングエリアは、15kmおきに設置するのを理想としています。本来であれば、最低でも2か所のパーキングエリアを設けなければならないのです。
満載の大型トラックは、3%の上り勾配では、平地より160kW以上も余分なパワーが必要になります。
大型トラックの出力は、概ね250〜350kWで、80km/h定速走行に必要な出力は、100〜150kWが必要です。
なので、速度を維持するのは容易ではありませんし、一度、減速してしまうと、加速には時間が掛かります。
上り区間は8kmもあるので、慢性的に渋滞する可能性があります。
一方で、上り区間の手前は長い下り坂なので、海底部では、事故が起こりやすくなります。
こういった懸念を払拭するためには、速度制限を厳しくする方法があります。
関門国道トンネルは、勾配は4%ですが、制限速度は60km/hに制限しています。
この場合、上り勾配で余分に必要になるパワーは同じですが、空気抵抗が減るため、速度の維持が容易になります。
平坦部だけ制限速度を高めると、制限速度が低くなる上りに差し掛かる場所では、より渋滞しやすくなります。
全区間の制限速度を厳しくすると、勾配区間は4kmほど短くなりますが、通過時間は長くなってしまいます。
勾配を緩くすると、速度の維持が容易になりますが、勾配区間が長くなるため、トンネルの全長も長くなります。
結局、通過に掛かる時間も、伸びてしまいます。
国内で最長の自動車トンネルは、首都高速の山手トンネルですが、このトンネルは、途中に出口が数多くあり、中抜けが可能です。
国内にある1本の連続するトンネルでは、関越トンネルの11kmが最長です。
80km/hでの通過時間は、8分余りです。
海底という特殊な環境を考えると、第二青函トンネルを道路トンネルとするのは、現実的ではありません。
道路ではなく、鉄道トンネルとするなら、自動車や貨物の輸送は、どうなるのでしょうか。
ユーロトンネルでは、カートレインが採用されています。
これは、乗用車を自走で列車に積み込み、そのまま列車で海峡を渡る方式です。
ヨーロッパでは、ユーロトンネル以外でも採用されています。
第二青函トンネルが完成したなら、現行の青函トンネルで採用することが考えられます。
新幹線と在来線の分岐点付近に、乗用車の乗降場を設けます。
なぜ、現行の青函トンネルになるかと言うと、新幹線だけでは、青函トンネルの輸送力に余力が残るためです。
かと言って、貨物列車を通すと、新幹線の速度制限を外せません。
その点、カートレインは、青函トンネルの専用設計になるので、高速化と風圧対策を実施できます。また、標準軌とすれば、新幹線との共存が容易になります。
トラックに関しては、ビギーパック方式が考えられます。
ビギーパック方式は、中型トラックをそのまま列車に積むカートレインの一種です。
ただし、高さ制限が厳しく、コンテナを搭載したトラックは、ビギーパックにできません。
ちょっと、貨物船の話をします。
貨物船には、大きく分けて、タンカー、ばら積み船、コンテナ船、RoRo船があります。
列車も、ほぼ同じ分類ができますが、日本ではRoRo船に相当する貨物列車がありません。
RoRoとは、RollOn-RollOffの略で、貨物を自走で乗降させる船です。カーフェリーや自動車運搬はRoRo船に相当します。
ビギーパックは、RoRo船相当する貨物列車になります。
閑話休題
ビギーパックは、輸送全体の中では小規模なものになるはずです。
また、輸送効率を考えると、トラックの乗降場を複数の都市に置くのが望ましいので、ビギーパックの貨物列車は、在来線を走行できなければなりません。
なので、ビギーパックは、第二青函トンネルを利用することにします。
もし、反論があるとすれば、輸送力の差でしょう。
道路の場合、連続的に輸送できるので、輸送力が増します。
仮に、大型トラックが80km/hで走行する場合、適正な車間は80mとされます。車体の全長は12mなので、92m間隔で走らせることができます。
計算の都合で、車間を99mとすると、5秒に1台のペースで走らせることができます。
1台に10tの貨物を積載できるとして、1時間に1車線当たり7200tを運ぶことができます。
道路は、片側2車線としても、乗用車やバスのために1車線くらいは必要になるので、実質で7200t/hくらいと考えて良いでしょう。
コンテナ貨物列車は、1編成当たり650tを輸送できます。
青函トンネルでは、最小間隔は10分くらいなので、目一杯でも4000t/hは厳しいでしょう。
当然と言えば当然です。
道路トンネルは、鉄道トンネルより大きな断面を持ち、かつ2本あるのですから、輸送力が倍以上あっても当然です。
ただ、新幹線の開通以前でも、青函トンネルだけで輸送力は足りていたのです。
人口減少と経済の冷え込みを鑑みると、2倍の輸送力が必要なのか、キチンと需要予測をした後に輸送力の差を議論するべきでしょう。
逆に、道路トンネルと同等の輸送力が必要なら、道路トンネルと同じように、複線のトンネルを2本掘れば良いのです。
トンネル掘削自体は、ほぼ同じ金額になります。
輸送に関わる人員で見ると、トラックでは輸送量当たりの必要な人員が増えるため、現実的には厳しくなります。(追従型の自動化等を行っても、列車には及ばない)
一方で、CO2 排出量は、鉄道の方が少なくなります。
仮に、鉄道用の全電力を火力発電で賄ったとしても、転がり抵抗自体が小さいため、エネルギ効率で鉄道輸送はトラック輸送を圧倒します。
その差は6倍以上にもなるので、「技術が進めば〜」と言うような差ではありません。
地球温暖化対策を行う場合、再生可能エネルギへの転換は、対象となる量が少ないほど容易になります。
対象となる量を減らすために、貨物輸送も高効率化が必要なのです。
モーダルシフトの考え方から、鉄道トンネルが求められます。
いつものように、長々と書いてしまいました。
結論として、第二青函トンネルは、道路トンネルとするには長過ぎるため、様々な弊害があり、現実的ではありません。
その点、鉄道トンネルとすれば、様々な利点があります。
道路トンネルを主張される方は、もう少し深く検討するべきだと思います。
知識人であっても、思慮が浅い場合はちょくちょく見掛けます。
「誰それさんが言ってるから間違いない」とは思い込まない方がいいと思います。
もちろん、私が正しいとは限りません。
だから、検討できるように、根拠を書くようにしています。
知識人であっても、思慮が浅い場合はちょくちょく見掛けます。
「誰それさんが言ってるから間違いない」とは思い込まない方がいいと思います。
もちろん、私が正しいとは限りません。
だから、検討できるように、根拠を書くようにしています。
それとは別に、今の日本の実力で、第二青函トンネルを掘れるのか、金銭的にも、技術的にも、需要面でも、疑問しかありません。
コメント