「世襲議員が多い」と、誰もが思っています。
同時に、「優秀なら、世襲でも問題ない」との意見もあります。
確かに、優秀な人材を、「世襲だからダメ!」とするのは、国益に反します。

では、今の世襲の国会議員は、皆さん優秀なのでしょうか。



比較のために、将棋のプロ棋士と比較してみましょう。

将棋のプロ棋士は、180人弱です。
国会議員は、衆参合わせて713人です。
国会議員は、プロ棋士の4倍くらいです。

将棋のプロ棋士で、二世(『世襲』はできないので『二世』と呼ぶことにします)棋士は、私が把握できた範囲で6人です。
国会議員は、概ね120人くらいです。
二世が占める割合は、プロ棋士は1/30くらい、国会議員は1/6くらいです。

なんと、国会議員は、プロ棋士の5倍も世襲(二世他)がいるのです。

これは、少々異常に思えます。





プロ棋士は、優れた才能が必要です。
当然、親子であれば、親の才能が遺伝する可能性が高くなります。
親の才能を引き継げる意味では、国会議員の子供も、親から才能が遺伝する可能性は高いでしょう。
もちろん、才能が遺伝する確率は、プロ棋士の親子でも、国会議員の親子でも同じです。

プロ棋士の子供は、親から学ぶことができます。
国会議員も、親の背中で学ぶことができますが、プロ棋士は自宅にいることが多く、国会議員より学ぶ機会を多いと思います。

このように、二世の誕生しやすさは、国会議員でもプロ棋士でも大差はないでしょう。
強いて言えば、プロ棋士の方が有利でしょう。




能力の面では、プロ棋士の方が、二世の比率が高かなりそうですが、現実は大きく異なります。
なぜでしょうか。

一つに、プロ棋士の生活の厳しさを知っているからでしょう。
だから、子供を積極的にプロ棋士にしようとはしないのでしょう。

もし、プロ棋士になったら、無条件に年収(歳費)が2000万円になり、年収以外に1200万円のお小遣い(文書交通費)を貰え、年金(在職10年以上で議員年金)も約束され、3人の弟子(公設秘書)の給料まであるとしたら、どうでしょうか。
(国会議員の歳費を超える収入を得ているプロ棋士は、180人中の5人くらい)
寄付は届ける(政治資金収支報告書)だけでOKで、個人の資金管理団体に登録しておけば、子世代に代わる際にも相続税の対象外にできるなら、どうでしょうか。
JRは乗り放題(JR無料パス)で、東京の中心に安く宿舎(議員宿舎)を借りられ、それとは別に事務所(議員会館)も充てがわれるなら、どうでしょう。
更に、プロ試験(選挙)に、多少は親が関与できるなら、どうなるでしょうね。
二世のプロ棋士は、激増するでしょうね。

ただ、プロ試験に親が関与できないなら、それほど増えないだろうとは思います。
プロ棋士になるには実力が必要なので、子をプロ棋士にしたいと思っても、プロ試験で振るい落とされることになります。



プロ棋士に二世棋士が少ない理由は、見えてきました。

では、政治家に世襲が多いのは、なぜでしょうか。

一つには、給与や権限の大きさがあるでしょう。
他にも、優秀な人でも得られない特権が、国会議員にはあるからでしょう。
例えば、政治資金団体の相続です。
だから、世襲以外では、族議員(公務員から政治家への転身者)が多いのでしょう。

ただ、将棋におけるプロ試験(4段への昇段or編入試験)ほどは、選挙で当選することは厳しくないことが、大きいように思います。
選挙は、地盤・看板・鞄と言われますが、地盤(選挙区)と看板(知名度)は親から世襲できるし、鞄(秘書)さえ引き継げる場合があります。

国会議員で世襲が多いのは、旨みが大きい割には、世襲は容易だからと言えそうです。


見方を変えると、プロ棋士の世界は、親が子に継がせたいとは思わないくらいに厳しい世界だが、国会議員の世界は、親が子に継がせたいと思うほど甘い世界のようです。




二世のプロ棋士は、間違いなく実力がありますが、世襲の国会議員は、実力があるとは限らないとも言えそうです。

特に、小選挙区制のため、個々の選挙区が狭く、地盤の形成が容易であることも、世襲を容易にしています。
実際、世襲議員の8割近くが小選挙区で当選しています。
小選挙区の定数が、全体の6割程度であることを踏まえると、小選挙区制が世襲をしやすくする理由とみて間違いないでしょう。

小選挙区制を見直さなければ、能力が低い世襲議員を産み出すことに繋がり、日本の国益を損ねます。
また、小選挙区制を見直したからと言って、能力が高い世襲議員が落選するとは思えません。
また、能力が低い世襲議員を救済しても、国益には繋がりません。






もし、小選挙区制を廃し、世襲が難しくなると、世襲したい議員は、どんな手段を取るでしょうか。

おそらく、衆議院の比例区に出すでしょう。
名簿順位が高ければ、ほぼ無条件に当選します。

現状の比例区は、ベテラン議員や世襲議員の滑り止めとして使われることが多いのですが、選挙区選挙における地盤が弱くなり、結果的に、比例区の重要性が高まることになります。

となると、今度は、選挙区選挙の定数より、比例区の定数を増やしたい人達が増えるのかもしれません。
それは、国会議員には、職責より旨みが強いことを意味します。


ここまで考えた上で、新しい選挙制度を考え、かつ国会議員の権利を適正化していかなければならないということでしょう。