「地震予知はできている」と言う人々の多くに共通する前兆に関わる主張は、
大きな地震は強い前兆が現れる」というものです。

何も考えなければ真っ当な主張に聞こえますが、よくよく考えてみると不思議な主張です。


地震の規模は、震源域の広さで決まります。
大きな地震は、広い震源域が必要です。
ですが、震源域は、地震による岩盤の破壊が進んだ範囲であり、地震が収まるまで震源域は
確定しません。
前兆現象は、震源域が確定する前に起きる現象ですから、地震の規模が決まる前に地震の
規模を示すかのように前兆現象が起きるのです。
大きさが決まる前に大きさを伝えてくるとは、酷い矛盾です。


震源域は歪が溜まっている場所だから、歪が大きな場所で前兆が起きるなら矛盾しない
こんな主張もあるでしょう。
ですが、果たしてそうなのでしょうか。

単純に、歪が大きな場所で前兆現象が起きると仮定した場合、歪は数十年から数百年かけて
溜まるので、前兆現象も何十年もかけて徐々に強くなっていくはずです。
地震発生の直前に、突如として前兆現象が出るはずがありません。
また、歪がある臨界点を超えた時に前兆現象が起きると仮定しても、広い震源域で均質に
歪が溜まるはずがないので、臨界点を超えた地点だけが前兆現象を起こすことになります。
これでは、前兆現象は地震の規模に比例することはありません。


大きな地震の前には、広い震源域全体で同時に前兆現象が起きる
そんな風に考え始めると、科学ではなく、ちょっとしたオカルトの世界です。
広い震源域で同時に前兆現象を起こすには、何らかの信号で、震源域全体がタイミングを
計る必要があります。
しかも、信号を受け止めて前兆現象を起こすのは、震源域内に留まらなければなりません。
これって、御都合主義の考えです。

例えば、東日本大震災では、震央から震源域の端まで250km程度あります。
もし、東日本大震災で、その規模に相応する前兆現象があったとするなら、何らかの信号は
250km先まで届いたことになります。
そうなると、熊本地震の前兆は、熊本を中心に半径250kmの範囲に届いたことになり、
九州地方全域、四国地方の大半、中国地方の西半分がその範囲内に収まります。
ということは、この領域内で歪が溜まっている場所は全て前兆現象を起こしてしまうので、
前兆現象の規模は、実際に起きる地震の規模よりはるかに大きくなってしまいます。


大きな地震の前には強い前兆現象が起きると思い込むことは、前兆現象を探す上で障害に
なってしまいます。
地震予知研究を行う上で、時期を示す前兆現象は地震の規模に比例しないと理解しなければ
なりません。

「前兆現象の強さと地震の規模は比例する」と信じて疑わない偽地震予知研究者を、
私達は笑ってあげましょう。


-地震予知研究の手引き(研究手法1)-