「1993年から2010年まで、2150Gt(2兆1500億t)の地下水を汲み上げたため、地軸が東へ年間4.3cm傾いている」
こんなニュースが、流されていました。
残念なことに、記者は、「地軸がズレる」ことに重きを置いているようですが、研究者の真の意図は、「地下水の汲み上げ量が多すぎる」ことに重きを置いているように思えます。
汲み上げ量の多さを示すために、「地軸がズレるくらい凄い」と言いたかったのでしょう。
本来なら、記者の役目として、社会的な問題に警鐘を鳴らすことがあると思います。
それを忘れて、意外性を重視してしまったようです。
でも、メディアを批判する当ブログでは、記者に代わって、汲み上げた地下水がどこへ行くのかを、考えることにします。
それには、『仮想水』を考える必要があります。
『仮想水』は、食糧を輸入すると、食糧生産に使用された水も、輸入されたことになるとの考えです。
大量に食糧を輸入する日本は、『仮想水』の輸入量も莫大なものになります。
日本は、毎年83億t(8.3Gt)の『仮想水』を輸入していると推定されています。
日本国内では、533億tの農業用水を使用しています。
両者を合計すると、616億tの水で、国民の食糧を生産していることになります。
食糧自給率に比して、国内の農業用水の使用量が多いのは、水を多く使う水稲米の生産が多いからでしょう。
日本では、国民の食糧を生産するために、国内外で616億tの水を使っています。
国民1人の1年分の食糧を作るためには、ざっと500tの水が必要だとわかります。
これを基準に、世界の80億人分の食糧を生産するために使われる水量を計算すると、4兆トン(4000Gt)の水が必要になります。
実際には,農地は乾燥地にも広がっているため、ここまでではありません。
現時点では、世界で約3兆t(3000Gt)の農業用水が、使用されています。
地下水は、18年間で2150Gtとされているので、農業用水の4%くらいが、地下水で賄われている計算です。
地下水の使用率は、意外に低く感じるかもしれません。
ですが、アジアで盛んな水稲米の生産は、使用水量が多い上、水稲米の生育には水に含まれる養分が必要なため、河川の流水を使用せざるを得ません。
水稲米の生産で大量の河川水を使用するため、相対的に地下水の使用量が少なく見えるのでしょう。
日本は、83億tの『仮想水』を輸入していますが、カロリーベースの食糧輸入率は70%に迫るので、8300万人分の食糧を輸入していると見ることができます。
この場合、1人分の食糧を生産するために必要な水量は、約100tとなります。
この場合、世界で使用される農業用水は、約8000億tと見積もることができます。
その場合、農業用水の15%を、地下水に依存していることになります。
地域によっては、農業用水の大半を地下水に頼っているところもあるでしょう。
日本は、食糧の2/3を海外に依存しています。
であるなら、『仮想水』に対しても、責任ある対応が求められます。
同時に、日本国内での水資源の維持・管理・新規開発を考えていかなければなりません。